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Close your Eyes ep.94-2



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












「何があったんですか…?」

後部座席に身を沈め、震えるジンを抱きしめながらジェジュンは意を決してそう問いかけた。携帯電話へと視線を落としていたホンマンはバックミラーを通してジェジュンを見つめ、再び前方へと視線を戻す。

いま、報告の入った彼の友人のことではないだろう。彼の質問はジンがなぜこんなにも怯えているかということだ。

ジンには伝えてあるのだから隠す必要はない。しかし、再び言葉へするには若干の勇気が必要だった。

「K…ジンの育ての親に当たる人間が何者かに暴行を受け、瀕死の重症で発見された。手術が始まってからすでに4時間が経過している」

「暴行…?」

「…あぁ」

震えが一層強まる。抱きしめる腕を強め、ジェジュンは青ざめたその顔を見つめた。その反応を見る限り、確かにそれが原因で怯えているようだ。

しかし、それだけではわからないこともある。この怯え方は尋常ではない。他に何か理由があるのではないか、問い詰めるように鋭い視線を送ってもホンマンは表情を崩すことはなかった。

それ以上は話す必要がないと言っているようにも取れる。もしくは、知られたくないことなのだろうか…。わからないことだらけだが、それ以上質問することもできなかった。

重い沈黙に包まれたまま、3人を乗せた車は病院へと吸い込まれていった。何度も訪れたし、ここに入院していたこともある。馴染みのある場所なのに、なぜか今日はまったく違う場所のように思えた。

「ジン兄さん」

凍り付いてしまったかのように動かないジンを引き寄せ、外へと促す。しかしすでに、立ち上がることもできなくなってしまったようだ。

辺りを見回し、誰もいないことを確認したジェジュンはそっとその身体を抱き上げた。

院内は静まり返っていた。外来受付時間が終わっているのだから当然だ。自分たちの足音だけが響く廊下を進み、3人は手術室の前で足を止めた。

まだ手術は続いているようで、赤いランプが点灯している。壁際に備え付けられたソファへと抱えていたジンを下ろし、ジェジュンもまたその隣に腰を下ろした。

「みん、なは…?」

数時間ぶりに聞くその声は酷く頼りない。肩に回した手に力を込め、ジェジュンは俯いたままのその横顔を見つめた。

「大丈夫だ。みんな自宅にいる。あそこが一番安全だからな」

「カンタ兄貴と、エリック兄貴も…?」

不安は尽きることがない。ホンマンはジンの目の前に膝をつき、涙に濡れたその瞳を見上げた。

「カンタはみんなと一緒だ。エリックはKの部下が護衛をしている。だから、心配はない」

「おっさんは…?おっさん、助かる…?」

「大丈夫だ。Kはそう簡単に死なない。それに…ヴァネスの腕はお前が一番よく知っているだろう?」

ヴァネスのおかげで何度も命を助けられた。しかし、祖母は彼の技術をもってしても助けることができなかった。安心を得たいのに、それを超える不安ばかりが押し寄せてくる。

視界は滲み、緊張の糸が切れたように涙が溢れていく。こぼれた涙はひざの上で握られたこぶしを濡らしていった。

「も、もう、誰も死なせたくないのに…っ。誰も、傷つけたくないのに…っ」

「ジン…」

「やっぱり、オレはあそこから出ちゃいけなかったんだ…っ。誰にも、逢わなければ…っ」

自らを傷つける言葉。それは小さな棘となり、ジェジュンとホンマンの心にも突き刺さるようだった。

祖母を亡くしたときの悪夢が同時にふたりの脳裏で喚起された。二度と、あってはならない。二度と見たくないあの痛々しい姿。思い出したくもないのに、その姿が鮮明に浮かび上がる。

「そんなコトはありません」

「…」

「僕は、ジン兄さんに逢えてよかったです。これからもずっと一緒にいたいです。だから…そんな悲しいコトは言わないでください」

思いのほかはっきりとした声音だった。それは揺るぎない想いがこの胸にしっかりと巣くっているからだろう。大きく根を張り、どんなに風が吹いても決して倒れることはない想い。どんなことがあっても変わりはしない。

「だって…オレといたら、ジェジュン君も…っ」

「僕は絶対にいなくなったりしません。どこへ行っても、必ずジン兄さんのところへ戻ってきます。ジン兄さんと一緒にいることが、僕にとってかけがえのない幸せなんです」

その言葉はかすかな光をジンの心へと注ぎ込んだ。しまりかけていた心の扉を押し開き、優しい光で闇に吸い込まれようとしていたその心を照らし出す。

そばにいることが他人を不幸にしてしまう。おかしくしてしまう。そう思うことが常であるジンにとっては一番の救いの言葉だった。

「ジン兄さんがいなかったら、僕は幸せになれません。だから、そんな自分を傷つけるようなコトは言わないでください。僕のそばで、いつも笑っていてください。そうすれば僕はもっと幸せになれます」

「…オレも、同意見だ。オレは、お前に会えなかったらずっと”あの男”の鎖に繋がれたまま、自分を押し殺して人形として存在するだけだった。お前に会えて、オレは初めてひとりの人間となれた。だから、誰にも逢わなければとか…そんな悲しいことは言うな」

「…」

見開かれた瞳からとめどなく涙が溢れていく。ふたりの言葉が真実であることは、その瞳を見ればわかる。出逢えてよかったと言ってくれたふたりの思いが優しい光とともに心に吸い込まれていくようだった。

みるみるくしゃくしゃになっていく顔。子どものように泣きじゃくり、嗚咽をこぼす。壊れたときのあの泣き方ではなく、いつものジンの泣き方だった。

「ジン兄さん」

涙を拭う手を押しのけ、その身体を包み込む。子どもをあやすように背中を撫で、ジェジュンはそっと頬に唇を寄せた。

しばらくそうしていると、不意に視界の隅で点灯していた赤い光が消えた。振り返るふたりの行動にジンもまたジェジュンの胸にうずもれていた顔をあげる。

扉が開くとストレッチャーとともにそれを押す白衣に身を包んだ人々が現れた。反射的に立ち上がり、ジンは夢中でその後を追いかけていく。

1分ほど経過しただろうか、額に汗を浮かべながら現れた青年をふたりは凝視した。

「手術は成功だ。あとは、あのひとの気力次第ってトコだな…」

大体の話はジフンから聞いていた。手術が終わるまで待つつもりだったようだが、半ば引きずられるように少し柄の悪い人々に彼は連れ去られていった。

詳しい報告は家族にするのが常だが、生憎と彼には親族がいないという。近い人間として上げられたのがジンの名前だった。

「ジンは…?」

「Kについていった」

「…そうか」

親子といっても過言ではないほどの間柄だという。どういう経緯があるのかはわからないが、ジフンがそういうのであればそれが事実なのだろう。

「状況は、ジンに説明すればいいのか?」

「…オレが聞く。まだ、ジンは不安定だ」

それは規律違反に抵触する。少し考えた後、ヴァネスは小さく頷いた。きっと、説明をしても他言されることはないだろう。そんな根拠のない確信があった。

「わかった。じゃあ…とりあえず移動するぞ」

「ま、待って!」

静かな廊下に反響する声。続いて聞こえてくる慌しい足音。顔を上げればまだ青ざめた表情で涙を浮かべたジンがこちらへと駆け寄ってくるところだった。

不安は幾分薄れたものの、恐怖はなかなかなくならない。最悪の事態が頭の隅にいまだこびりついていた。

「オ、オレも聞く…っ」

「…」

悲しみに濡れた瞳を真っ直ぐに見つめ返し、ヴァネスは無意識にその手を伸ばしていた。涙の痕が色濃く残る頬を撫で、わずかに顔をゆがめた。

「大丈夫か?」

「オレは、大丈夫…。おっさんのほうが、大変だから…」

「…」

懸命に気丈に振舞う姿に胸が締め付けられる。本当なら片時も離れず、彼の元にいたいだろう。だが、いまはどんな言葉もかけられなかった。

いまは一医者として説明責任を果たさなければならない。それがたとえ、この世で最も大切な人が傷つき、悲しむとわかっていても避けては通れない道だった。

「ヴァネ、ス…?」

「…心配すんな。手術は成功だ」

その言葉に自然と息苦しさが少し和らいだ。安堵の息をつき、強張った表情が少しだけ緩んだ。

「詳しい話は場所を移すぞ」

「う、うん…」

そして揃って4人は移動を開始した。小さな部屋へと通され、イスを勧められる。そして大きな封筒からいくつかのレントゲン写真を取り出した。

一目見ただけで、骨折しているのがわかる。しかも、それは一箇所に留まらない。目視できただけでも十箇所はありそうだ。

「ヒドイ…っ。なんで、こんなコト…っ」

何の説明もないまま、ジンは震える声でそう呟いた。その声は怒りと悲しみが入り混じり、堪え切れない感情がひしひしと伝わってくる。

「見たとおり、骨折が大小あわせて26ヶ所。すべて処置済みだ。年齢から考えると通常より完治には時間がかかっちまうだろうな。あと、若干折れた骨が臓器に傷をつけていたがこっちも大した問題じゃない。出血も少なかったし、穴が開いてたワケでもねぇ。問題は、こっからだ」

あえて、ヴァネスはすべての感情を切り離してできる限りなんでもないことのように告げた。そしてレントゲン写真を封筒へと戻し、代わりにもう一枚の写真を取り出した。

テーブルの上、壁際へと押し付けられるように設置された台。そこへその写真をはめ込めば、白い光がその写真を透かしだす。

「ここに白く滲んでるのがわかるか?」

ペンを棒代わりに、頭部のCT画像の一部を囲むように円形になぞる。頷いたことを確かめ、ヴァネスは腕を下ろした。そして無意識に顔を背けていた。

「頭部座礁による、脳内出血が見られる。血は取り除いたが、場所が場所だけに…後遺症が残ることも考えられる」

「後、遺症…」

言葉の処理が全く追いつかない。しかし、その言葉の意味はわかっていた。血の気が引いていくのを感じながら、ジンは瞬きも忘れてヴァネスの横顔を見つめていた。

「左大脳半球に出血が見られたことから、考えられることとしては言語障害、視野障害、片麻痺…。どうなるかは目覚めてみないとわかんねぇな…」

「…」

言葉だけがぐるぐると頭の中を回っているようだった。もう、何も言うことができない。思考能力も、言葉もすべてを奪われ、ジンはただ呆然としていた。

「ジン」

「…」

「ジンっ!」

身体を揺さぶられ、ようやく空気が流れ込む。呼吸を忘れていたようで、突然入ってきた空気にジンは涙を浮かべながらむせこんだ。

「しっかりしろ。まだ、障害が残ると決まったワケじゃねぇ。いまオレが言ったのはあくまでも可能性だ。わかるな?」

瞬きを繰り返せば、浮かんでいた涙が静かに零れ落ちた。それにも気づかないのか、ジンは小刻みに頷く。そして心だけは焦り、混乱していた。

「とにかく、いまは目覚めるのを待っててやれよ?起きたときにお前がいれば、あの人だって少しは安心するだろ?」

「…う、ん…。わかった…」

感情のない虚ろな声。相当、堪えている。一向に立ち上がることもできずにいるジンを見つめ、ヴァネスは静かに立ち上がった。そして、世界を隔てていた扉を開いた。

「おい、ジェジュン。一瞬でも、ジンから離れんな」

「…」

言われなくてもそうするつもりだ。開いた扉から中へと進み、ジェジュンは茫然自失しているジンを抱き上げた。優しいぬくもりに触れたせいで、堪えていた涙は次から次へとこぼれていく。

「…っく」

子どものように泣きじゃくる声を聞き、後ろ髪を引かれながらもホンマンはその場へと留まった。

「ケガはどれも大したことはねぇ。ただ、脳内出血があった。障害が残るかもしれねぇって話しただけだ」

「…わかった。ありがとう」

「なんかあったらすぐ呼べ。今日はこのままここに泊まるつもりだから」

「恩に着る」

深く頭を下げ、ホンマンはくるりと踵を返した。その背中を見送り、ヴァネスは小さく息をつく。そしてやるせない思いに顔を歪め、きつく唇をかみ締めた。










続く。
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