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Close your Eyes ep.94-3



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












かける言葉など何もなかった。ただ、そばにい続けることだけが自分に課せられた使命なのだとさえ思ってしまう。

消毒液の匂いが充満する部屋で、質素なソファに肩を並べて腰を下ろす。すでに鳴くことにも疲れてしまったのか、無気力な瞳がぼんやりとベットに眠るその人を見つめているだけだった。

気づけば窓の外は白み始めていた。まだ昨日までの疲れも残っているのに、今日も朝から仕事だ。しかも最悪なことに一睡もできていない。

それでも、そばにいることでジンが少しでも安らぐのであればいいと繰り返し髪を撫で続けた。

「おっさんはね、もうひとりのオレのお父さんなんだ…。お母さんが死んで、家を追い出されて行くところもないしお金もないオレを拾って育ててくれた。いろんなコトを教えてくれたんだ…」

それは初めてジンの口から聞く過去の出来事だった。か細い声で告げられる過去をひとつも聞き逃さないようにとそば耳を立てる。

「おっさんがいなかったらオレ、たぶんここにはいなかった…。ジェジュン君に逢うコトも、ミヌに逢うコトも、ドンワン兄貴に逢うコトも…ウォンタクが生まれてくるコトも、全部なかった」

きっと、いま当たり前のようにあることさえ出逢わずに終わっただろう。この幸せな風景すら、目にすることもなく死んでいた。それ以前に、幸せというものさえわからないままだった。

「いつも、真っ暗だったんだ…。何を見ても、何を耳にしても、なんにも感じない。とても”生きてる”って言えないような生活。いま思うと、寂しい人間だったのかもしれない。でも、そのときのオレはそれすら感じられなかった」

「…」

「寂しいも、痛いも、悲しいも、苦しいも、嬉しいも、楽しいも…何もわからなかった。そんなオレを見捨てずにいてくれたのはおっさんだけだった。おっさんしか、オレにはいなかったんだ…」

目を閉じれば彼の豪快な笑い声や、少し乱暴な言葉遣い、それにぎこちない笑顔が鮮やかに浮かび上がる。思い出せば心が熱くなるようだった。

「だから、オレ…恩返ししなきゃ…。いっぱい優しさもらったから、いっぱい返さなきゃ…っ」

心が帯びた熱に、一度は止まったはずの涙がふたたびこぼれだす。伏せたまぶたの裏からこぼれた雫はまつげを濡らし、頬を流れ落ちていく。

その想いを受け止めるように、ジェジュンは抱きしめる腕に力をこめた。涙の浮かぶ目じりに口づけ、髪に触れ、震える手を包み込む。

「じゃあ…元気になったら、いっぱい恩返ししましょうね…?僕も一緒にジン兄さんがもらった優しさを返していきます」

「ジェジュン君も…?」

「はい。僕の大好きなジン兄さんを育ててくれた人なんでしょう?だったら僕も恩返ししたいです。育ててくれてありがとうって、伝えたいです」

そう告げれば涙を浮かべたまま、ジンはかすかに微笑んだ。少しもたげた顔をジェジュンの胸へと戻し、コクリと頷く。消え入りそうな声でかすかに”好き”と呟き、ジンはその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

目を閉じ、しばらくの間穏やかな時間に身を委ねていた。ふと、規則正しく聞こえていた音がわずかに乱れる。弾かれたようにまぶたを開き、ジンはベットへと駆け寄った。

「おっさんっ!」

悲痛な声で何度も呼びかける。するとまぶたが一度痙攣し、ゆっくりとその裏から瞳が現れた。

いつも真夏の太陽のようにギラギラとしていた瞳はいまやか細い光を放つのみ。生気が抜け落ちたようなガラス玉がそこにあるだけだった。

「おっさん…?オ、オレのコト、わかる…?」

不安げな声で何度も繰り返される言葉。包帯で巻かれたかろうじて出ている指先を包み込み、ジンは祈るような気持ちでその顔を覗き込んだ。

「なんて、顔してやがんだ…。オレは、こんなコトじゃくたばんねぇから、安心、しろ…」

「おっさん…っ」

幾分呂律は回っていないが、思いのほかはっきりとした口調だった。安心したのだろう。わずかに微笑を浮かべながらも、瞳からは絶え間なく涙がこぼれていく。

「クソガキ、泣いてんじゃ、ねぇ…」

「だ、だって、オレのせいで…っ」

いま、ここにこうしてユンソンがいるのは紛れもなくジンと親しい人物だから。あの男はいつも周りから剥ぎ落としていく。そして弱りきった頃、仕留めに現れる。それが常だった。

「お前の、せいじゃねぇ…っ。単に、オレが弱かっただけだ…。オレが教えたコト、もう忘れやがったのか…?」

「わ、忘れてないもん…っ」

まるでむきになる子どものようだ。しかし、その言葉は疑う余地もないほど真実だ。ジンが何かを忘れることなど絶対にありえない。それは一番長く時を過ごした彼が最もよく知っていた。

「オレより、あいつらが強かった、それだけのコトだ。何ひとつ、お前のせいじゃねぇよ…」

「で、でも…」

「でももクソもねぇ。こんなトコで油売ってるヒマがあったら、さっさと行け。オレが退院するまで、オレの持ってる権限をすべてお前に預ける」

声に力などないのに、なぜか力強く感じられる。身が引き締まるようだ。

「あんな、卑怯者なんかに負けんじゃねぇ。今度こそ、お前のその手で自由をもぎ取って来い」

「おっさん…」

「ジン、お前なら絶対にできる。お前は、オレの息子だからな…」

名前をくれた張本人なのに、ほとんど呼ばれたことはない。それだけに、名前を呼ばれると緊張に心臓が大きく跳ねるようだ。

「なんのために、お前にチョンジンって名前つけたと思ってんだ…。しっかり、前向いて進みやがれ。後ろばっか見てんじゃねぇ」

乱暴に涙を拭い、ジンは決意を固めたように大きく頷いた。その様子に、ユンソンは満足げに微笑んだ。子どもの門出を見守る親のような笑顔に、後ろから様子を見ていたジェジュンは胸が熱くなるのを感じた。

「退院するまでに片付いてなかったら、張り飛ばすからな…」

「うん…っ」

まだ言いたいことは山ほどあるのに、体力がそれを許してはくれない。ユンソンは抗うともできないまま、再び眠りへと落ちていった。

静寂が包む部屋に先ほどと変わらぬ規則正しい電子音が響く。しばらくベットの傍らから動かなかったジンは、意を決したようにこぶしを握り締めた。

顔を隠すように俯いたまま振り返り、ジンは見守っていたジェジュンの腕の中へと飛び込んだ。応えるように背中へと手を回せば、絶え間なく震えが伝わってくる。

声を殺して泣くその姿。こうして抱きしめてあげることしかできない。何か、自分の想像もつかないような現実が目の前にあるようなきがした。

「ジン兄さん…?」

呼びかけても返事はない。ただそばにいて欲しいと求めるように、腕が身体を締め付ける。

「オ、オレ…ちょっと、出かけてくる…」

「…はい」

「す、すぐ、戻ってくるから…だから、待ってて…っ」

どこへ行くのか、何をするのか。疑問は山ほどある。しかし、どれも言葉にして次げることはできなかった。そして、聞いたところで到底理解できる内容だとは思えない。それならばせめて、受け止めてあげようと心に決めた。

「絶対、戻ってくるから…っ」

「…はい」

「ジェジュン君のトコ、戻ってくるから…っ」

まるで自分自身に言い聞かせているようだ。理由のない恐怖が押し寄せてくるようで、ジェジュンはその想いを飲み込むようにきつく唇をかみ締めた。

「ジン兄さん。戻ってきたら、僕のお願いをひとつだけ聞いてもらえますか?」

「お、願い…?」

「はい。帰ってきてくれるまで秘密です」

気になって仕方がない。でも、自分もどこへ何をしに行くのか秘密にしている以上問いただすこともできない。悶々としたままジンは小さく頷き、もう一度身を寄せた。

「ジン兄さん、愛してます…」

その言葉と想いを閉じ込めるようにうなじへ顔を埋め、かすかに微笑む。次の約束を交わすこともできないままの別れ。不安に押しつぶされそうになりながらも、ジンはしばしいまの幸せに身を委ねた。

ジェジュンを仕事先へと送り届けたジンは真っ直ぐに自宅へと戻った。待ち構えていたのは神妙な面持ちの家族。車を降り立ち、ジンは並ぶ全員をゆっくりと見つめた。

「ただいま」

「…お帰り」

ユンソンが目覚めたという情報はすでにヴァネスからジフンへ、そしてジフンから全員に伝わっていた。しかし、神妙にならざるを得ない。ある種の覚悟が全員の胸にはあった。

「明後日、出発するから…。それまで、みんなでゆっくり過ごしたいと思ってるんだけど…ダメかな…?」

その提案を否定できるものは誰もいなかった。様々な思いを胸にしたまま、それぞれは小さく頷いた。また、以前のように黙っていなくなるものだと思っていたせいで心がわずかに安堵した。

「ホンマン、明後日の朝10時に迎えに来てくれる?」

「…わかった」

散々、車の中で説得を試みたがすでに心は決まってしまった後だった。なにを言ってもすでに決意を覆すことはできない。ホンマンはすべてを受け入れ、そして受け止め、覚悟を決めた。

皆に囲まれて自宅へと入っていくジンを見送り、ホンマンはひとり車へと戻った。そして小さく息をつき、ゆっくりと車を発進させる。

もう、後戻りはできない。あの人が動き始めてしまった以上、対抗できるのはジンだけだということは嫌というほどわかっていた。その前に終わらせたかったが、やはりあの人では歯が立たない。

やるせない思いを胸にホンマンもまた自宅へと帰っていく。今度こそ、これが最後になるだろう。どんな最後が待ち受けているのか、それはわからない。

ただ、考えたくはないが、ここに二度と帰ってこれないかもしれない。自宅を見上げながらホンマンは漠然とそんな思いを抱いていた。










続く。
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テーマ : BL小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント

No title

今のジンにとって、ドンワンやミヌはどういう存在なんだろう…?

ジェジュンの所に戻ってくる
それがジンにとっては当たり前の事であり願いなのだろうけど、今のジンは、ドンワンやミヌよりもジェジュンが最優先事項に思えて、2人との温度差がツラいです…
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