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Close your Eyes ep.95-6



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












深夜、目を覚ませば手に温かな感触があった。ふと微笑み、その手を引き寄せる。

冷えきった身体と心が次第に温まっていく。ようやく人に戻れた気がして、スンフンは穏やかな微笑みを零した。



「・・・やられた」

翌朝、いつもより一時間早い出勤。車内で喘息発作を起こしたスンフンを担ぎ、病院に到着したのは3時間前の事だった。当直医師と応急処置をし、帰宅したのは2時間前。その時、この部屋でスンフンは寝ていたはずだ。

今は、無残にも抜き去られた点滴があるだけだ。ベッドはすでに冷たい、今更病院内を探したところで見つかりはしないだろう。

「しかも、ちゃっかりしてやがる」

誰もいない医局に行けば、ソルビのデスクには仕事の内容が書かれたメモがひとつ。自分の部屋に行けば、デスクにはカルテの山があった。

カレンダーには赤い印がついている。つまり、ここまでは帰って来ないという事だ。

さて。ふむと考え、ジンに何と言い訳しようかと考える。今頃ボアと一緒に惰眠を貪っているジンの姿を思い出し、シウォンは苦笑を零した。

今回ばかりは相手が悪い。そう思ってもらうしかないだろう。

この日ばかりは特別だと思い、シウォンは今日のスケジュールをパソコンで確認した。ボアの誕生日には連休を貰おうと考え、今からどう過ごそうかと計画を立て始めた。



「・・・?」

身体が揺れる。その振動に目を覚まし、ユファンは目の前の光景に首を傾げた。病院の真っ白な壁とは違い、色鮮やかな青い空が視界一杯に広がる。

再び、身体が揺れる。隣を見やれば、そこにはスンフンがいた。いつもの眼鏡ではなく、昔していた眼鏡がやけに新鮮だった。夢かと思い、ぎゅっと頬をつまんでみる。

でも、それはただ痛みがあるだけだった。微かに赤くなった頬を擦り、ユファンはじっとスンフンを見つめた。

「スンフン兄?ここ、どこだ?」

「うん?あぁ、ハワイ州だよ。そこの小さな島」

「・・・すげぇポンコツ」

「うん。前住んでた人が使わないからって、置いてったものらしいよ。年代物過ぎて公道は走れないよねぇ」

いつものスーツ姿ではなく、Tシャツにハーフパンツのラフな格好。ブランド物は一切なく、唯一腕にしている時計だけがやけに眩しく見えた。

不思議に思いながら、視線を前に戻す。すると、空の青とは違う色が目に入った。思わず感動で声が出る。

ユファンのはしゃぎように笑みを零し、スンフンは落ちそうになるその身体を支えながら運転を続けた。タイヤの跡が砂浜に刻まれていく。

「すげぇー!スンフン兄、空も海も真っ青だーっ!」

「そうだね」

「後で泳ぐ!あ~、ジンも誘えば良かった!ぜってぇ気持ち良いぞ~っ」

「ほら、ユファン君。このままだと本当に落ちちゃうよ」

更に身を乗り出そうとするユファンを無理やり車内に戻し、スンフンは前方に見えた建物を見やり微かに笑った。その微妙な変化に気付き、ユファンの視線もそれに移る。

見えたのは少し寂れた建物。砂浜に小さな階段があり、そこを数段上がって先を進むとドアが見えた。

軋む音が耳に響く。中は廃墟のように散らかっていたが、あまり傷んでいる様子はなかった。興味を覚え、探検するように建物を観察し始める。

小さな部屋が二つ、そしてトイレとシャワー・ルームが一つずつ。カウンター・テーブルの中には小さなキッチンがあった。こじんまりとしているのが第一印象だ。

「なぁ、スンフン兄。ここは何だ?」

だが、疑問がある。自分がいつの間にここに連れてこられたのかという事もそうだが、何故ここなのかという事。

サンダルで中の様子を見ていたスンフンは子供のように笑い、ユファンを振り返った。そして、ゆっくりと言葉を選ぶように語り始める。

「僕、引退したら小さな喫茶店を開きたいんだよね。カウンター席とオープン席が何個かしかない、小さな寂れた店」

「へ?」

「看板犬はレインとクラウド。お店に誰もいない時は、どちらか連れて海に行くんだ。好きな本読んで、眠くなったらうたた寝して。そんなのんびりした生活」

「うん?」

正直言えば、スンフンの語る話の内容はこれっぽっちも分からなかった。何となく今の生活がずっと続くような気がしていたが、そういうわけではないという事に気付く。

いくらなんでもこのままの生活をしていたら、スンフンは明らかに過労死してしまう。抜け出せるならそれは嬉しい事だし、願うなら今すぐにでも叶えてあげたい。

でも、仕事が好きなスンフンがそんな夢を抱いているとは知らなかった。間逆な生活は想像出来なくて、ユファンは頭を抱えた。どんなに考えてみてもイメージがわかない。

「でも、残念な事に僕は料理出来ないんだよねぇ・・・」

困ったと苦笑を零しながら、スンフンは建物から出て行ってしまった。その後を追い、ユファンも砂浜を歩き出す。

「ユファン君、最近料理上手になったよね」

「え?そ、そうか?カリメロとか、ボアとか、いろいろ教えてもらってるんだ。二人とも店開くのが夢で・・・その、俺も共同経営者にならないかって誘われてて」

「ふぅん・・・」

「あ、でも、大学の一角を借りてやるだけだ。とりあえず、店を持つのってどんな感じなのかって・・・お試し、だ。来期限定の申請出して、これから計画立てるんだ」

自分の事でそんなにも嬉しそうな顔をするのは初めてだ。そう思いながら、何故か嬉しい気持ちと反して嫉妬が生まれる。

最近、抑制がきかなくて困る。主治医という壁を自分でなくしたせいだろうか、形もないその抑制がこんなにも自分に枷をつけていたのかと思う。

「スンフン兄?」

気持ちを隠すのも難しい。少しも楽しくなさそうなスンフンの表情に、ユファンは怯えながら声をかけた。瞳が僅かに潤んでいる。

怖がらせたかったわけではない。そう思い、スンフンは控えめに微笑んだ。ユファンの髪を優しく撫で、背の高い彼をぎゅっと抱き寄せる。

「ごめんね。ユファン君が楽しそうに他の人の話するから、少し妬けたんだ」

「や・・・妬け・・・!?」

「僕と一緒にいる時は、僕の事だけ考えて欲しい。僕は、本当は嫉妬深いんだ。ユファン君、知ってるでしょう?」

「・・・ど、どしたんだ?スンフン兄、何かおかしいぞ・・・」

肩に頭を預け、真っ赤になった頬を隠す。それでも、髪の隙間から頬の熱が零れる。指でそれを感じながら、スンフンは照れた耳にそっと唇を寄せた。

びくっと身体が反応し、スンフンの腕の中から逃げようと身体を捩る。痛みが走り顔を歪めると、ユファンは驚いた様子でスンフンの身体シャツを引っ張り上げた。

よく見れば、胸元にはバストバンドが巻かれていた。違和感はあったが、まさかこんな物を巻いているとは思わなかった。

手首を掴もうとすれば、スンフンがそれよりも早く腕を引いた。それが確証となり、ユファンは頬を膨らませ不機嫌となった。

困ったなと呟きながら、スンフンは不貞腐れたユファンの手を引き波打ち際へと歩いていった。ひんやりと、冷たい砂が足に絡まる。

「スンフン兄、怪我してる」

「転んだんだよ。すぐ治るから、心配しないで」

「病院行ったら、スンフン兄、点滴してた。それに・・・煙草臭かったぞ」

「やだなぁ。シウォンが吸ってたのが移っただけだよ」

振り払いたくてもスンフンの手を離せず、ユファンはぎゅっと口を結んだ。不安の原因は分かったが、これではすっきりするどころか不満だらけだ。

確かめるべく唇を重ねてみれば、僅かに煙草の味がした。更に眉間に皺が寄り、ユファンの顔がしかめっ面になっていく。

口付けを契機に、スンフンは何度もユファンの唇に自分の唇を重ねた。僅かに開いた口に舌を滑り込ませれば、それに驚いたユファンが一瞬だけ姿勢を正す。

身長の差は縮める事が出来ない。離れた唇を名残惜しむように見つめ、スンフンは小さく笑った。この歳で嫉妬は恥ずかしい。

「少しずつここを改装して、将来的には今の家からこっちに移り住む予定。だから、ユファン君も準備しておいてね」

「え?」

「戸籍も移すから。その時は父さんと養子縁組じゃなくて、僕とするんだよ。父さんは嫌だって言うかもしれないけど、そればかりは僕も譲れないからね。準備は僕がしておくから、ユファン君は何もしなくていいよ」

「え?え?スンフン兄と?何でだ?」

ポケットの中から箱を取り出し、戸惑うユファンの顔の前に差し出す。リボンがかけられた箱を不思議そうに見つめ、ユファンはそれを丁寧に解いた。

「あ。あと、韓国のお母さんにも会わないとだね」

「母さんと?え?え?」

箱の中には、ベルベッド調のまた小さな箱が入っていた。母親やソルビの部屋で見た事ある、そう思いながらこれが何の箱か分からないまま四方から眺める。

どうやって開けるのだろう。そう思っていると、スンフンの手がその箱に添えられた。するとすぐにその箱は開き、中には細い銀の輪が入っていた。

「結婚は、ユファン君が20歳になったらしようね」

「・・・」

「誰にも内緒で、ここで式を挙げよう。見届けはレインとクラウドとストーム、それでも僕達は幸せだよね」

「・・・」

きょとんとしていた瞳が、次第に大きく見開かれる。怒って赤くなっていた顔が、別の紅さへと変わっていく。

変貌を間近で見つめ、スンフンは悪戯に笑った。飛び上がって喜ぶと思っていたが、こうにも予想外に照れる姿を見れると思っていなかった。あまりの可愛さに顔が綻ぶ。

「返事は?」

「あ・・・えと・・・」

「とりあえず、僕としては『はい』しか受け付けてないからね。ほら、たった一言でいいんだよ?『はい』って言って」

「ス、スンフン兄の意地悪!」

むくれた頬に口付けをひとつ。頑として『はい』と言わないユファンの予想外の行動に、更に意地悪がエスカレートしていく。

「指輪、する?」

「だ、駄目!ま、まだ、しない」

「何で?」

「と、とりあえず!どうしたらいいか、帰ったらボアに相談する~っっっ!」

本当に変わったな。そう心の中で呟きながら、スンフンは素早くユファンの右手をとって薬指に指輪を通した。途端、小さな悲鳴が響き渡る。

「意地悪、意地悪、意地悪!スンフン兄、これとってっ!!」



君がいれば。それだけでいい。

小さな天使が舞い降りた。その時、僕の未来は君と一緒に生きる事なのだと確信した。










続く。
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