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Close your Eyes ep.94-6



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。

ep.95を更新し終えた為、以前更新していたep.94に戻ります。












「御礼が遅くなってしまったね。連れてきてくれてありがとう」

できる限りの処置を終え、彼はようやくアレックスへと言葉を投げかけた。微笑んではいるが、メガネの奥にある瞳はどこか人を観察しているようで居心地が悪い。

「い、いえ…」

「ジンはどこにいたのかな?」

「…ダウンタウンの、スラム街よりの廃墟…」

別に隠すことではない。しかし、それ以前に、嘘をついてはいけないような空気がそこにはあった。

「他に誰かいなかったかな?ジンがひとりで行動するはずはないんだ。もうひとり、身長が2mくらいある同じ東洋系の男性はいなかった?」

「いや、いなかった…はず…ですけど…」

「そう…。いろいろ聞いちゃって悪かったね?誰かに遅らせようか?」

「大丈夫っす。車、あるんで」

指差した方向を見れば黄色い車体の車がひとつ。どこからどう見てもタクシーだ。そして目の前にいるのは私服姿の青年。

「えっと…君はタクシーの運転手さん…なのかな?」

「一応。ジンをよく空港からここに運んでて、そんで仲良くなったってカンジ…です」

丁寧な言葉遣いには慣れていないようで、妙な口調になっている。どうやら、思い過ごしだったようだ。本当に彼は単にジンの友だちで、ここへ送り届けてくれただけなのだろう。

そむけていた顔を戻せば、先ほどまでとはまったく違う微笑があった。いったい、どういう心境の変化だろうか。しかも、取り巻いていた張り詰めたような空気はすでになくなっていた。

「名前、聞いてなかったね…。僕はシン・スンフン。この病院で医師を務めている。ジンの”父親”だ」

「えっと、AJ…じゃなくて、アレックス…です」

「よろしく、アレックス」

差し出された手を反射的に握り返し、アレックスはその瞳を見つめた。やはり、先ほどまでの観察するような眼差しもない。首をひねりながら手を離し、アレックスは時計を見遣った。

すでに10時過ぎ。仕事に行かなければならない時間はとうに過ぎていた。

「引き止めてしまって悪かったね。今度お礼もかねて、食事なんかどうかな?きっとジンも喜ぶと思うんだ」

「あ、はい…」

「じゃあ、また今度。ジンから連絡させるから」

まるでこっちの状況など見通しているかのようだ。あっさりと解放されたアレックスは腑に落ちないようなものを感じながらも、車へと乗り込んでいった。

そして見送ったスンフンはジンが眠る部屋へと戻った。部屋に残っていたシウォンを見遣れば、目を伏せながら静かにかぶりを振った。

「何があったのかはわからないが、だいぶ憔悴しているようだな。それに、ホンマン君の行方も気になる」

「…彼は何も知らないみたいだ。一応、あの人へ連絡して調べてもらうようには連絡しておいたよ」

「そうだな…。それが懸命だ。しかし…はた迷惑な親子喧嘩だな。もう少し内輪的にはできないのか?」

そんなことを言われても自分にはどうすることもできない。シウォンの呟きに苦笑を滲ませ、スンフンはベットへと歩み寄った。

以前、メールで次に逢ったときは驚くかもという内容があった。確かに、これは驚きだ。もっとも、そのときは違う意味で言ったのだろう。

艶やかなストレートになった髪を撫で、少しやつれた頬に触れる。怪我はないようだが、いったい何があったというのだろうか。

「とりあえず、僕は仕事に戻るぞ?一応ボアに連絡をして、おかゆでも作ってきてもらうよう伝えておくからお前はここでしっかりとジンが起きるまで待っていろ」

「…そうさせてもらうよ」

素直じゃないシウォンの優しさを受け止め、スンフンは隅へと追いやられていたイスを引き寄せた。そしてそれに腰を下ろし、その寝顔を見つめる。

「まったく…約束の日になっても来ないから心配したんだよ?」

言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが、いまはそのときではない。少しでも落ち着けばと手を握り、その甲にそっと口づけた。

ジンがここにいる以上、昨日のあのスリップ音はやはり何か関係しているのだろう。昨夜の胸騒ぎはこれだったのだと、スンフンは小さく息をついた。



「あんまり手を煩わせるな」

朦朧とする意識の中、聞こえてくる声。誰のものか、考えるまでもない。姿を確認しようと目を凝らしてみたが、すでに視力も使い物にはならないようだった。

「チュンジェを助けるために、自分の身をも犠牲にする…見上げた意識だ」

含み笑いで告げられる言葉。どれもこれも、寒気がする。相変わらず、ただ歩いているだけでも毒を撒き散らしそうな雰囲気を男は持っていた。

「おそらく、チュンジェならば今日中にはここへやって来るだろう。…お前を助けに、な」

それはあってはならない。逃がした意味がない。けれど、ジンは確かにここへ来てしまうだろう。絶対に身内を放ってはおけない優しい人間だ。わかってはいながらも、来ないでほしいと願わずにはいられない。

「安心しろ。ちゃんと、チュンジェに逢わせてやる。それが、私の最後の情けだ」

「…」

ヒューヒューと尋常ではない呼吸音だけが響く。扉は閉ざされ、明かりも窓もない。部屋というよりは、大きな箱のようだった。

もう立ち上がる余力もない。地べたに這いつくばったまま、ホンマンは静かに目を閉じた。少しでも体力を回復させなければ、ただその一心だった。



ずっと、夢を見ていた。追いかけられ、逃げることしか許されない。誰に追いかけられているのかはわからないまま。ただ怖くて、ただ夢中で逃げ回っていた。

ビクンと身体が跳ねるように震える。かっと見開かれた瞳。血走ったその瞳は尋常ではない。呼吸もままならないし、やはり何かに怯えているようだった。

「ジン?」

「…」

瞳にはしっかりと自分の姿が映っているはずだ。しかし、認識できないようだった。無意識なのだろう。逃げるように身体が一歩遠ざかる。

「ジン、もう大丈夫だよ」

意識してゆっくりと、そして優しく語り掛ける。瞬きを忘れた瞳からポロリと雫が零れ落ちていった。

「お、お父さん…」

「うん」

確認するような呟きにそう受け答え、スンフンは怯えさせないようにと慎重に手を伸ばした。スンフンと認識していても、まだ心は恐怖に包まれていた。指先が触れただけで身体が震える。

「大丈夫、何も怖がらないで。僕がずっとそばにいるから」

子どもに語りかけるようにそう告げ、優しくその手を引く。緩やかに抱き寄せられたジンはその香りにそっと息をついた。

「お父さん…っ」

堰を切ったようにあふれ出す。泣きじゃくるジンをしっかりと抱きしめ、スンフンは何度も髪をなでた。

いったい、どれだけの恐怖を感じていたのだろうか。そして、何に怯えているのだろうか。思い当たることはひとつしかない。けれど、心のどこかでそうではなかったと信じたかった。

「ジン、何があったの?」

思い出したくないといわんばかりに激しくかぶりを振る。そして、何かを思い出したようにその動きが止まった。

胸に押し付けていた顔を上げ、懸命に何かを探す。しかし、どれだけ部屋を見回してもやはりどこにもいない。認識すると、血の気が一気に引いていった。

「ホ、ホンマン…」

「ジン?」

「ホンマンどこ?ホンマン…」

うわ言のように繰り返されるその名前。やはりホンマンも一緒だったのだろう。しかし生憎とホンマンはここには来ていない。

「大丈夫だよ。いま僕の友だちが探してくれてるから、ジンは僕と一緒にホンマン君を待ってようね?」

「…」

つまり、ここには来ていないということだった。しかも、探している段階だという。収まったはずの震えが再び沸き起こる。

青ざめた顔でガタガタと震えるジンにスンフンは眉根を寄せた。彷徨う視線は何か、悩んでいる証拠。服を掴む手は、緩んだりきつくなったりを忙しく繰り返していた。

「ジン、とりあえずもう一度眠ろうね?子守唄は何がいいかな?」

何を問いかけても震えるばかりで返答はない。見えない恐怖に追い詰められているようで、スンフンは現実に連れ戻すべく抱きしめる腕に力をこめた。

「ジン、これは夢だよ?何も怖いことなんてない。次に目覚めたとき、必ずホンマン君もいるから…ね?」

大好きなスンフンの言葉。疑わしいとは思いながらも、いつも投げかけられた言葉を信じてきた。けれど、こればかりは信じることなどできない。事実、ホンマンはここにいないのだから…。

どうにかして助けに行かなければ。どうにかしてここから抜け出さなければ。もう二度と誰かを失いたくはない。母国で交わしてきた約束もある。

混乱する頭でジンはただそれだけを考えていた。

優しい歌声が室内に響く。意識に反して下りていくまぶた。ホンマンを迎えに行かなければならないのに、抗えない。

そしてジンは頬に涙の痕を残したまま、再び眠りへと落ちていった。










続く。
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