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Close your Eyes ep.94-7



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












眠ったことを確かめ、スンフンは小さく息をついた。そして起こさないように部屋を後にする。しばらくは起きないだろうと踏んで、自室へと戻ったスンフンは受話器を手にした。

慣れた手つきで押す番号はごく限られた人間しか知らないホットライン。数コールですぐに応答はあった。挨拶は後回しに、内容だけを伝える。そして相手もまた、短い返答だけだった。

通話を終えて部屋へと戻ればやはりベットにジンの姿はあった。先ほど変わらぬ位置でか細い寝息をこぼしている。

この分なら大丈夫そうだ。スンフンは再び扉を閉め、足早に廊下を進んでいった。

最低限終わらせなければならない仕事を脳裏に描く。集中してやれば3時間ほどで終わるだろう。ソルビにジンの様子をこまめに見るよう伝え、スンフンはイスへと腰を下ろした。

仕事に没頭していると突然、扉が開かれた。顔を上げればそこには血相を変えたソルビの姿があった。

「お、お兄ちゃん、大変っ!アイツ、いなくなってるわよっ!」

時計を見れば仕事にかかってから一時間半。スンフンは素早く立ち上がった。

「最後に確認しに行ったのは何時?」

「えっと…30分くらい前」

駆け込んだ部屋。そこにはもぬけの殻になったベットがあるのみだった。シーツに手を伸ばしてみたが、ぬくもりはない。おそらく、ソルビが確認を終えた直後に出て行ったのだろう。

「おいおいおい、何をやってるんだ?息子の行動を把握できないなんて、最低だぞ?仮にも親と名乗ってるんだ、責任は果たさないといかんだろうが」

騒ぎを聞きつけてやってきたシウォンは半ば呆れ顔で、そう揶揄するように責める。ゆらりと振り返ったスンフンは、鋭い眼光でシウォンを凝視した。

「僕に怒るなんてお門違いだぞ?怒るなら、息子の管理ができなかった自分自身に怒るべきじゃないのか?」

「…」

シウォンの言葉はどれも正しい。スンフンは心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返し、落ち込むソルビの頭を撫でた。

「大丈夫だよ、必ず見つけ出すから」

「お兄ちゃん…」

「まったく…世話の焼ける親子だ」

言葉とは裏腹に、どこか楽しげに笑う。足早に去っていくスンフンの背中を見つめ、シウォンはそっと肩をすくめた。

「一生懸命な姿を見せられると放っておけない性だって、知ってるだろう?それとも、それはわざとなのかな?」

まるで独り芝居だ。すでに見えなくなった背中。シウォンの声が届くはずもない。いぶかしむように見上げるソルビに苦笑を滲ませ、シウォンは白衣をなびかせるように踵を返した。

「スンフンと僕はいまからしばらく有給をもらう。そう、総務に連絡しておいてくれ」

「え…?」

何度もいまの言葉を頭の中で繰り返す。ようやく理解したとき、すでに文句を言うべき人はどこにもいなかった。頬を引きつらせながら身体を小刻みに震わせ、ソルビは誰もいない廊下を睨みつけた。

「帰ってきたら、馬車馬のように働かせてやるから…っ」

恨みをこめてそう呟き、無人となった扉を勢いよくしめた。響く音に負けないほど大きな足音。いかり肩のままソルビは廊下を踏みしめるように歩いていった。



少し歩いただけなのに、どうしてこんなにも息が上がるのだろうか。しかも、いまにも破裂しそうなほど心臓は脈打っていた。

目の前には高層マンション。震える指先で部屋番号を押せば、すぐに応答があった。

『ジン兄さん!?』

その驚きは突然現れたせいなのか、それとも他の理由なのだろうか。しかし、そんなことを考える余裕もない。ふらつく足で中へと進み、エレベーターへと乗り込む。

止まる寸前の重力に押しつぶされてしまうような錯覚。倒れこみそうになるのを寸前で堪え、ジンは開かれた扉を通り抜けた。

「ジン兄さん、どうしたんですか?さきほど、シウォン兄さんから連絡をもらったのでジン兄さんのためにお食事を用意していたところなんです」

確かにその言葉の通りなのだろう。テーブルの上には大きなお弁当箱と、それに詰めるための料理が並べられていた。

「顔色、悪いです。少し休まれますか?」

「…う、ん…。少し、休ませてもらってもイイかな…?」

「はい」

小さな身体でジンを支えるように寝室を目指す。そしてベットにジンを寝かせ、ボアは柔らかな手を額へと当てた。

「少し、熱があります。食欲はどうですか?」

「…あんまり…」

「わかりました。少し待ってていただけますか?」

ボアの言葉にコクリと小さく頷き、ジンは小さく息をついた。扉が閉ざされたことを確認し、重い身体を懸命に起き上がらせる。そしてジンは空ろな瞳をまくらへと注いだ。

以前とまくらは違っているが、この妙な硬さは変わっていない。まくらカバーから中身を取り出し、心の中で謝罪しながら歯で綿を包んでいる布を噛み切った。

切れた口から手を忍ばせれば案の定、冷たく硬い感触が伝わってきた。

「…」

ずっしりと重いその物体。シリンダーを開ければ弾はしっかりと詰まっていた。それを背中に回し、ベルトへと押し込む。見えないようにシャツで隠し、ジンはベットから立ち上がった。

ぐらりと視界が揺れる。ベットへ手をついて、なんとか倒れこむのだけは阻止できた。そしてジンは扉をそっと開き、ボアが背中を向けているのを確認した。

気づかれぬようにそっと歩き出す。壁伝いに進んでいくと、レインが不思議そうな顔でこちらを見上げていた。震える手でその頭を撫で、ドアノブへと手をかける。そしてジンはマンションを後にした。

気づけばすでに夕方。空は藍色へ染まり、月が顔を出していた。

進むにつれ、人影が少なくなっていく。昨晩、初めて訪れた場所。根拠はないが、ここにくればホンマンの元へと行けるような気がした。

地面にはブラックマークが2台分。ひとつは昨夜、自分たちがつけたものだ。恐怖はいまだ胸に巣くっている。しかし、使命感だけが身体を突き動かしていた。

不意に、辺りがまばゆい光に包まれる。その光は背後から発せられていた。振り返ればそこには1台の車があった。目を細め、運転席から現れた人影を見つめる。

「いらっしゃい。ずいぶん、遅いご到着だね?待ちくたびれちゃったよ」

「だ、れ…?」

背格好は自分と同じくらいだろうか。逆光のせいで顔が見えない。しかし声を聞く限り、そこには悪意も敵意も、ましてや殺意もなかった。

「生憎、名前はないんだ。とりあえず立ち話もなんだから、乗って。早くあの方のところに戻らないと怒られちゃうからさ」

「…」

「警戒してるの?別に僕はなんにもしないよ。単に、君を案内するだけ。それしか命令は受けてないし」

その言葉はおそらく真実なのだろう。それに、この話に乗らなければホンマンの元へたどり着くことはできない。信用はできないが、それしか選択肢はなかった。

「本当ならもうちょっと早く挨拶できたんだけど、あの人…えっとホンマンさんだっけ?その人に邪魔されちゃったんだ」

「…」

ゆっくりともったいつけるように近づいてくるその影。そして距離にして1m。ジンは思わず目を見開いた。同時に吐き気さえ覚える。

「…っ」

「あ、ビックリした?」

クスクスと、まるでイタズラに成功した子どものようだ。手を伸ばせば触れられる位置まで進み、青年は足を止めた。

「初めまして、兄さん」

時が、止まってしまったかのようだった。大嫌いな自分の顔と瓜二つ。音を立てて血の気が引いていくジンに対して、青年はひどく楽しげだ。

「ほら、早く乗って。僕、兄さんと話してみたいってずっと思ってたんだ」

いったい、何がどうなっているのだろうか。頭がついていかない。不意に手を引かれ、触れた箇所から悪寒が走る。振り払おうとしても、身体はすでに言うことを聞かなくなっていた。

躓きそうになりながらも車へと押し込められる。そして状況を整理できないまま、ジンはまるで双子のような青年とともに闇の中へと消えていった。

「…」

その車を見送る一対の瞳があった。黒一色の衣装を身にまとい、目にはゴーグルがかけられている。そしてその人はホルダーにあったトランシーバーのようなものを取り出した。

「ターゲット確認。南東方向に向かって走行。これより尾行します」

抑揚のない声でそう告げると、その人は茂みへと向かって駆け出した。隠してあった車へと乗り込み、エンジンをかけた。

車内のモニターには赤い点滅がひとつ、ゆっくりと移動していた。それを目視し、その人はゆっくりと走り出した。

GPSはうまく機能しているようだ。あとは、車を乗り換えずに目的地まで走行してくれれば敵の本拠地がわかる。

先を行く車が通った道をなぞるように進んでいく。しばらくするとモニターには青い光が見え始めた。それは増殖し、一箇所へと終結していく。

前方を見据えたままダッシュボードへと手を伸ばす。中には1枚の写真が入っていた。行き交う光に照らし出されたその写真には50歳から60歳ほどと思われる男がいた。

おそらく隠し撮りだろう。タバコを燻らせ、屈強な男たちに囲まれて冷笑を浮かべている。視線は斜め左下を向いているが、判断するに不都合はない。

それは前回、逃してしまった火種だった。今度こそ、特殊部隊の意地をかけて捕獲してみせる。

再度その顔を脳裏に刻み、その人はアクセルを踏み込んだ。










続く。
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