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Close your Eyes ep.94-8



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












街並みは大都会から、どこかのどかな雰囲気へと変わっていた。農業が盛んな地域のようで、広い平野が続いている。

「着いたよ」

エンジン音が止み、静寂だけが残った。意を決して車を降り立ったジンは、一見普通の家のような建物を見上げた。

「早くおいでよ。おいてっちゃうよ?」

「…」

罠を承知で来たはずなのに、まだ躊躇いが残っていた。一歩踏み出すだけでも相当な覚悟が必要だ。

気を抜くと崩れ落ちてしまいそうで、絶えず唇をかみ締めていた。背中に触れる硬い感触だけがギリギリ、心を現実に引き止めているようだった。

「よく来たな、チュンジェ」

玄関を入るなり、上から降り注いだ声。恐怖が全身を支配していくようだ。それでも負けじと、俯いていた顔を上げる。そしてジンは久方ぶりにその人を見つめた。

「…ホンマンは、どこですか…?」

思いのほか、言葉はすんなりと出た。声の震えもあまり感じられない。おそらく、恐怖が飽和し始めたのだろう。極限状態で人は、信じられないような力を出す。きっと、それと似たようなものだ。

けれど、心臓だけはどうにもならない。いまだ全力疾走をした後のように、心臓は波打っていた。

「久しぶりの再会だというのに、挨拶もなしか?…まぁ、いい」

「…」

別に再会を望んでいたわけではない。ただ、来ざるを得ない状況だっただけ。用が終わればすぐにでも立ち去るつもりだ。しかし、容易に帰れないこともわかっていた。

「こっちだよ」

足取り軽く進んでいく名もなき青年。間をおき、ジンもまた歩き出す。もう、逃げ出すことはできない。ならばあとは前に進むだけだ。

見かけは単なる一軒家だというのに、中は想像以上に広い。しかも、入り組んでいる。

いったん2階へと上がり、再び下っていく。迷わせるために遠回りをしているのか、それとも本当にここしか道がないのか。判断できる材料はどこにもない。いまはついていくことしかできなかった。

「ここだ」

薄暗い一本道の廊下。そして足を止めたその先には鉄の扉があった。監視するためだろう小窓を除いては、隙間はひとつもない。

「…」

自分で開けろと言わんばかりに鍵が差し出された。その鍵も特殊だ。合鍵など一切作れない、電子錠だった。おそらく、抜け出ることはできないと誇示するためだろう。

「…」

ここまできて引き下がるわけには行かない。震える足で前へと進み、そのカギを手に取る。そして鍵穴へと差し込んだ。

重々しい開錠の音。息を呑み、扉へと手をかける。重く冷たい扉を引けば、中に横たわる姿があった。

「ホンマンっ!」

後先考えず、なりふり構わず、ジンは室内へと駆け出した。横たわる身体を抱き起こし、血の気が引いたその顔を覗き込む。

「目、開けてよっ!」

頬を何度か叩けばまぶたがわずかに痙攣し、ゆっくりと瞳が姿を現した。疲れきった、生気の薄いその瞳。しかし、生きていてくれたことだけでも喜ばしいことだった。

「ジ、ン…?」

「ホンマン…っ」

よかった、と心の底から安堵がこみ上げてくる。信じたくはないが、最悪の状態を覚悟していた。それだけにこうして声が聞けたことは奇跡に近い。

「バカが…。ボディガードを助けに来る主がどこにいる…」

途切れ途切れだが、その声はしっかりとジンの耳に届いていた。ぎゅっと抱きついたまま、こぼれそうになる涙を堪えるように唇をかみ締めた。

「だって、ホンマンはトモダチだもん…っ」

「…」

何気ない一言がこんなにも心を満たしてくれる。叱咤しなければならないのに、自然と笑みが広がった。

ふと、低い笑い声が聞こえてくる。それはホンマンがこぼしたものではない。底冷えのするようなその笑い声。狭い部屋にしばらくその声は続いた。

「おもしろいことを言う。喜劇役者にでも転向したのか?」

「…別に、おもしろいコトじゃないよ。ホンマンは、オレのトモダチだ…」

「友だちか…まぁ、いい。これでその男は用済みだ」

カチリと何か、金属の触れる音が聞こえた。振り返らずとも、それがなんなのかはすぐにわかった。

「ジン、離れろ…っ」

「…」

血の気が引いていくようだ。しかし、腕に力が入らない。突き放そうとしても、その身体はびくともしなかった。代わりに、抱きしめるその力が強くなる。

「ジン…っ」

小刻みに揺れる身体。恐怖に怯えながらもその手を決して離そうとはしない。冗談じゃない。そうホンマンは心の中で叫んだ。守るべきは主であるジンの命だ。逆は絶対にあってはならない。

「しばらく見ない間にずいぶんと平和ボケしたようだ…。お前も死にたいのか?」

「オレは、死なない…。みんなと、生きて帰るって約束したんだ…っ」

「…」

「絶対に、死なないっ!」

叫び様、ジンはベルトに挟んでいたそれを抜き出した。左手でホンマンの身体を支え、右手で黒い銃身を握る。

「震えている手で何ができる?それじゃ狙いも定められないだろう」

薄く笑みを浮かべたまま、馬鹿にするかのように囁く。それでも、ジンはその手を下げることはなかった。

「ジンっ!」

この手を汚してはならない。誰かの命を奪うなら、それは自分が担うべきものだ。せっかく、生まれ変わりかけていたこの魂を穢してはならないと、ホンマンはその名を力の限り叫んだ。

「…っ」

耳を劈くような音が聞こえ、火花が散る。銃弾は腕をかすったが、握ったそれを落とすことはなかった。いまだ瞳はヨンチョルを見据えたまま、微動だにしない。

焼けるような痛みが全身を駆け回っていた。でも、いまここで倒れるわけにも悲鳴を上げるわけにもいかない。この危機的状況をどうやってやり過ごすかが問題だった。

「…」

長い、無言の攻防が続いていた。銃口はそれぞれを見据えたまま、下ろされることはない。

力を振り絞って身体を起こし、盾になろうとジンの前へと歩み出る。しかしすぐにその身体は後ろへと引き戻された。

先に銃を下ろしたのはヨンチョルだった。足元に落ちていた鍵を拾い、背を向ける。それに倣い、名もなき青年もまた背を向けた。

重い扉が閉ざされる音が聞こえてもなお、銃口は宙へと向けられたまま。引きずるように前へと進み、ホンマンは震えるその手を包み込んだ。

「もう、大丈夫だ…」

まるで凍り付いてしまったかのように動かない指をひとつずつ解き、握られていたその銃を抜き取る。尋常ではないほど汗ばんだ手のひら。その手を引き寄せ、ホンマンは落ち着かせるように背中を撫でた。

「ジン」

「…っく」

ふたりきりになったことで、堪えていた涙が溶け出す。瞳からこぼれる大粒の涙をすくい上げ、その身体を抱きしめた。

どれだけの恐怖を我慢していたのだろうか。身体を震わせながら泣きじゃくるジンに胸が締め付けられる。壁に背を預け、ホンマンは天井を仰ぎながら小さく息をついた。

「ホンマン、ゴメンね…?独りにさせて、ゴメン…っ」

「大丈夫だ。それより、寒くないか?腕は、痛まないか?」

寒くないはずも、痛くないはずもない。それでも、ジンは小さく頷いた。ぎゅっと抱きついたままうなじへ顔を埋め、時折しゃくりあげるような声をこぼす。

「ホンマンのほうが、痛いもん…っ」

「オレは大丈夫だ」

間近で見つめる瞳。涙に濡れているせいで宝石のような輝きを放つ。頬に触れる髪をのけようと伸ばした手は血がこびりついており、一瞬の躊躇いが生じる。

「ホンマン…?」

「傷を見せてみろ。まだ、出血してるだろう?」

シャツを脱いで傷口を曝せば、確かにいまだ出血しているようだった。しかし、思いのほか傷は浅そうだ。この分ならば痕は残らないだろう。

止血帯代わりに千切ったシャツの袖を巻きつける。これ以上はどうすることもできない。それをジンもわかっているようで、ホンマンの足の間に座りなおし、その胸に頭を預ける。

「ホンマン、やっぱりあの人オカシイよ…」

「…」

「自分で銃を握って撃つなんて、考えられない…。それに、オレたちふたりとも生かしておくなんて…」

確かにジンの言うとおりだった。以前ならば、誰かに殺させていた。それに、決して自分の手は汚さない人間だ。銃を持っていたという時点でおかしい。

しかし、いまはそれよりも他に考えるべきことがある。真剣に考え込むジンを見つめ、ホンマンは苦笑を浮かべながら息をついた。

「それよりも、いまはどうやってここを抜け出すかだ」

「それは…たぶん、大丈夫」

「…?」

どういう意味だろうかと首を傾げれば、あどけない瞳でジンはホンマンを見上げた。

「ここに来るまでの間、ずっと尾行されてたもん」

「…本当か?誰にだ?」

「そこまではわかんないけど…でも、大丈夫だよ」

しかし、尾行されていたのは確かだ。あの青年に出会った場所には、昨晩なかったはずの車が隠されるように止まっていた。視線もわずかながら感じられたし、ここへ車での間常に一定距離を置いて同じ車がついてきていた。

「きっと、大丈夫。絶対、一緒に帰ろうね…?」

「…あぁ」

繰り返される大丈夫という言葉。それは不安の裏返しだと気づかないはずもない。

せめて少しでも安らげばと、いまだ震えている身体を抱きしめる。目を閉じ、そのぬくもりに縋るその姿に自責の念がこみ上げてくる。

彼だけでもあの幸せな世界に戻してあげたい。そう思わずにはいられない。

「帰ったら、何をしたい?」

「…ミヌと一緒にゴハン作って、いっぱい食べるんだ。ドンワン兄貴とは、写真撮りに行きたいな…。ジフン兄貴の健康診断受けて、ヴァネスとジム行って…それからウォンタクといっぱい遊ぶんだ」

目を伏せたまま告げられるささやかな願い。それはこの地に来るまで、当たり前のようにあった現実だった。

「ヘソン兄貴と買い物行って、アンディと点字覚えて…それから、カンタ兄貴にピアノを教わって、エリック兄貴とお昼寝して、ジェジュン君に歌うたってもらって、お父さんにいっぱい甘えるの。それでね、ボアちゃんとユファンでケーキバイキングに行くんだ」

かすかに浮かぶ幸せそうな笑顔。現実逃避だとわかっていても、笑顔が戻ってくれたことに心が温かくなっていくようだった。

「あとね、おっさんと旅行したいな…」

「…きっと、喜ぶだろうな…」

口にはあまり出さないが、彼がどれだけジンのことを大切に思っているか嫌というほどわかっていた。未来を想像し、ホンマンはかすかに微笑んだ。

生きることを諦めなければ、絶対にその夢は叶う。そう、信じている。










続く。
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