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Close your Eyes ep.94-9



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












暗闇に、ゆらりと白い陽炎が立ち上る。しかしそれはすぐに消え、代わりに紅い光が浮かんでいた。

久方ぶりに袖を通してみたが、やはり動きづらい。しかも、体重は変わっていないはずなのに多少きつく感じられる。

「参ったな…。少し、ジムでも通うとするか」

ポツリとそう呟けば、前方にいた青年がくるりと振り返った。そして足音も立てずに歩み寄る。

「隊長、どうかされましたか?」

「おいおいおい、いまの隊長はお前だろう?」

「そうですけど…。でも、引退されても隊長はいつまでもオレにとっては隊長です」

呆れたように息をつき、肩をすくめる。なにを言っても取り合ってもらえなさそうだ。これ以上話をしても無駄だと状況報告を促す。

「全隊員、配置につきました」

腕時計を見遣れば間もなく午前1時。タバコを携帯灰皿へと押し込み、指先で抓むように消火する。そしてそれを車の助手席へと投げ置き、男はゴーグルをはめた。

「指示はお前に任せる」

「し、しかし…」

「いまはこの特殊部隊とは関係のない単なる民間人だ。肩書きも精神科医としかない。このミッションの総指揮官はお前だろう?」

答えは待たず、男は前へと進んだ。装備を確認しながら最前線へと向かう。現役のときと同じく、やはり前面で戦うスタンスのようだ。

「相変わらずだな、シウォン先輩は…」

あの頃もやはりそうだった。総指揮官たるもの、前線に出て戦う必要はないはずなのに自らが切り込み隊長になる。その背中を見て育ったせいか、自分もまた同様に前線に立つようになっていた。

ひとつ息をつき、男はトランシーバーを口元へとあてがった。

「全隊員突入せよ」

そう告げればすぐに気配は動いた。潜んでいた隊員たちがいっせいに行動を開始する。男もまた、最後尾について家屋へと侵入していった。

あるグループは窓を割って進入し、あるグループは裏口から進んでいく。シウォンが先頭を切るグループは正面突破だった。

もっとも危険な進行と言っても過言ではない。入って早々、銃撃戦が始まった。しかし、そんなことで怯むものは誰もいない。それは特殊部隊として培ってきた経験がそうさせる。

言葉はなく、手振りのみで指示を与える。誰かが安全を確認し、さらに中へと進んでいく。ひとつ、またひとつと制圧していく。

1階の制圧を終え、階段を駆け上がる。うめき声や悲鳴が聞こえても、いまは気にしている暇さえない。ただ、親友の息子を救出する。それだけが使命だった。

2階をも用意に制圧を終えた特殊部隊は誰もが眉根を寄せた。身柄を拘束すべき男もいなければ、人質となっている人間も見当たらない。

「…隊長…」

確かにここへ入っていくのを見た。彼らが乗った車と同じナンバーの車も確認した。ここを出た様子もない。しかし、どこにも姿がなかった。

「…」

ゴーグルを外し、確かめるように視線を辺りへ走らせる。ふと何か違和感を感じ、シウォンは動きを止めた。どこからか風が吹いている。窓はすべてしまっているはずなのにおかしな話だ。

その風は本棚の辺りから吹き出ているようだった。それを察知した男が隊員へと指示を出す。

左右に散らばり、本棚を蹴り飛ばせば飛んでくる銃弾。予想的中というべきだろうか。閃光弾を中へ投げ込めば苦悶の声が聞こえてきた。

外していたゴーグルを素早くはめなおし、中へと進む。目を押さえながらのた打ち回る男たちは他の隊員へと任せ、シウォンは急な階段を下っていった。

「早い到着だな。さすが、元特殊部隊隊長と言ったところか…。なぁ、リュ・シウォン」

「ずいぶん、往生際がいいんだな?もっと抵抗するのかと思ってたが…残念だ」

抵抗するならばその分、借りを返すこともできたが無抵抗となれば話は別だ。しかし、何もしないとはまだ決まっていない。

イスに座っているせいで、手元も足元も確認できない。不用意に近寄れば、命に関わるかもしれない。

銃口を向けたまま、挟み込むように左右へと散らばる。机に隠されていた手元を除いてみても、武器はどこにもなかった。

「ジンはどこだい?彼を連れていかないと、親友がうるさいんだ」

「あぁ…シン・スンフンのことかな?彼にはだいぶ酷い目に合わされた」

目を伏せながらかすかに笑う。どこか、疲れきっているような印象があった。それに、幾分肌の色が黒ずんで見える。

「…」

しかし、いまはそんなことに注意を奪われているときではない。他の隊員へと身柄拘束は任せ、シウォンはさらに奥へと進んでいった。

現れたのは再び急な階段だ。しかも、ひとひとりが通るのもギリギリなほど狭い通路。奥へ進めば進むほど、明かりは届かなくなっていった。

この暗闇ではどんなトラップも注意することはできない。暗視ゴーグルへと手を伸ばした瞬間、突如辺りは明るくなった。目が追いつかず、眩しさに目を細める。

「大丈夫ですか?」

その声は背後から聞こえた。そして、声だけで誰かはすぐに判別がついた。

「あぁ。ヨンハ、悪いがそのまま照明を照らしていてくれ」

「はい」

危惧していたトラップは何もないようだ。しかし、すべてのトラップが目に見えるとは限らない。慎重に奥へと進み、シウォンは静かに手を伸ばした。

指先で触れてみるもとくになんの異変も感じられない。単なる扉のようだ。上方に設置された小窓から中を覗き込んだシウォンはようやく確認できた彼の姿に胸を撫で下ろした。それはあくまでも一瞬のことだ。

あきらかにふたりの様子はおかしかった。ぐったりとしたまま、身動きひとつしない。しかし、それ以上の様子は目視ではわからない。

扉は施錠してあるようで、ビクともしなかった。いったん、ヨンチョルのいた部屋へと戻れば予測していたかのように薄く笑う姿があった。

「カギはどこだい?おとなしく出してくれれば手荒な真似はしないと約束しよう」

「…カギはここにはない。すでに、持っているものは外へ逃がした」

淡々と告げる声。しかし、どこか楽しんでいる風であるのは誰が見ても歴然だった。冷笑を浮かべたままのヨンチョルにシウォンのこぶしが振り下ろされる。

的確に急所を突きながらも、力加減は怠らない。拷問にも等しい暴行だった。

「もう一度聞く。カギはどこだ?」

血反吐を高級そうな絨毯の上に吐き出し、這い蹲ったままシウォンを見上げる。そこにはいまだ冷笑が浮かんでいた。

「ここにはないといったはずだ」

「…」

「さぁ、どうする?あまり時間はない。ふたりならもって精々30分。ひとりなら、1時間と言ったところか」

救いようもないほどの悪党だ。どんな人間にも巣くうべき価値は何かしらあると思っていたが、この男に限っては万にひとつもない。こんな男の元に生まれたジンが不憫でならなかった。

「鉄の厚さは15センチから20センチ程度だろう。中がどうなっているかわからない以上電動カッターは使えない。ウォーターカッターはあるかい?」

「すぐに用意させます」

水ならばほとんどの場合、どんな状況下であっても危険は少ない。たとえば中に揮発性ガスが充満していたとしても、水である以上引火の恐れはない。

問題はただひとつ。ホースの長さは無限ではないという点だ。窓から引き込んだとして、7m。さらにこの細い通路を下った先に扉はある。合計するとおおよそ20mは必要だ。

そして、もうひとつは時間の壁。ヨンチョルの言葉を信じるならば、30分しか猶予がないということだ。切羽詰った状況だといえる。
しかし、その危機的状況ですらシウォンを追い込むことはできない。準備が整うまでの間、タバコを燻らせながらかすかに微笑んでいた。

「ひとつ、聞きたいことがあるんだがいいかい?」

「…」

「なぜ、こんなにもジンに拘る?」

注がれていた視線が一瞬だけ逸らされる。そして、その視線が戻ってくることはなかった。同時に、答えが返ってくることもない。

大して期待もしていなかった。だから、シウォンもそれ以上問いかけることはなかった。時計を見遣れば10分ほどが経過していた。

タバコを灰皿へと押し付け、窓の外を見遣る。ちょうど、そこには梯子がかけられるところだった。

受け入れるように窓を押し開き、機材を担いで登ってくる隊員を見つめる。そして床を踏みしめたその隊員はシウォンを見つめ、小さく頷いた。

「じゃあ、始めるとしよう」

ウォーターカッターの先端を持った隊員がまず降りていく。続いて照明を持ったシウォンが続いた。再び鉄の扉に対峙し、先端が押し当てられる。スイッチを入れれば水が細い先端から一気に放出された。

ひどく、息苦しかった。ケガのせいだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

胸に頭を預けたまま微動だにしないジンの額に、薄く汗が浮かんでいた。唇は浅く開かれ、懸命に酸素を吸い込もうとしている。

「ジ、ン…大丈夫か…?」

「…」

「ジン…っ」

返答がないことに不安を覚え、その間をもう一度呼ぶ。すると、繋いでいた手が少しだけ強く握られていた。大丈夫だと伝えようとしているのだろう。

いったい、どうなっているのだろうか。尾行されていたのなら、すでに救出活動が開始されていてもいい頃合だ。しかし、生憎とここは外界から隔離されている。耳も目も鼻も、なにひとつ役に立たない。

ただ、ひとつだけわかっていることがある。この部屋の酸素は、異常なほど薄くなっていた。心臓の音がやけに早い。しかも、その音は耳元で発せられているように喧しかった。

このままではどちらも危険だ。そう判断すると同時に、ホンマンは無意識のまま拳銃を手繰り寄せていた。

ふたり分の酸素もひとりになればその分長く生きられる。朦朧とする意識の中で、思うことはただひとつ。ジンの命を助けること。それは常々、ホンマンが念頭に置いていることだった。

ジンを助けるためなら自分の命をも厭わない。一切の迷いはなかった。指先で手繰り寄せたそれをしっかりと握り締める。そして持ち上げようとした瞬間、それは何かによって阻まれた。

「ダ、メ…っ」

「…」

しかし、もうこうするほかない。そう言おうとしたホンマンだが、その言葉は飲み込まざるを得なかった。訴えかけるような濡れた瞳。いまだ、ジンはふたりで助かることを諦めてはいない。

その眼差しに心が折れる。銃を手放し、ホンマンは代わりにその手を握り締めた。

そうだ。諦めてはいけない。ここで負けてはいけない。生きて守ると約束した。ジンとの約束は決して破ってはいけない。

どちらが欠けることなく、ふたりでここを出る。挫けそうになっていた心を再び奮い立たせたそのとき、事態は急変した。

突然、扉から吹き込んできた水。それはゆっくりと扉をかたどるように移動していく。できた隙間から流れ込んできた空気を、ふたりは夢中で吸い込んだ。

「たす、かった…?」

「…あぁ。もう、大丈夫だ…」

よかった、とか細い声で呟く。安堵すると同時にまぶたは下がり、笑みが広がる。意識が浅瀬を漂い始め、現実と夢の中を行ったり来たり。

大好きな人たちの明るい笑顔と”おかえり”と告げる声がどこか遠くから聞こえていた。










続く。
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