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Close your Eyes ep.94-10



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












どこかで、呼ぶ声が聞こえていた。眠いのだから寝かせて欲しいと思いながらもジンはゆっくりとまぶたを持ち上げた。

「ジン、大丈夫かい?僕がわかるか?」

「…」

虚ろな瞳。しかしどこか驚いている様子だった。瞬きを繰り返し、何度も覗き込むその顔を見つめる。そしてゆっくりと首をかしげた。

「ジン?」

「…転職、したの…?」

第一声がそれか。思わず脱力しそうになる。しかし裏返してみれば大丈夫という何よりの証拠だった。

入った瞬間、酸素が薄いことに気づいた。低酸素血症を起こしているようで、まるで全身が心臓のように脈打っていた。いまもまだ名残があるものの、幾分解消されたようだ。

「生憎、転職はしてないぞ?」

「ふぅん…」

「とりあえずここを出るぞ?外でスンフンが首を長くして待っているだろうからな」

聞こえてきた固有名詞に幼い笑顔が浮かぶ。その笑顔に安心し、シウォンは抱き寄せていたその身体を抱き上げた。

「オ、オレは大丈夫だから、ホンマンを先に…」

まったく…。心の中でシウォンは半ば呆れたように呟いた。

それは先ほどホンマンからも言われた言葉だった。思いやる気持ちは大切だが、こういうときばかりは自分自身を優先して欲しいものだ。

「心配するな。ホンマンも一緒だ」

「…?」

どういうことだろうかと肩越しに振り返れば、そこには担架に固定されているホンマンの姿があった。そしてシウォンが歩き出すとその担架はふたりがかりで持ち上げられ、後をついてくる。

「この人たちは…?」

「僕の後輩だ」

後輩。心の中で何度もその言葉を呟く。しかし、どこをどう見ても医者には見えない。難しい顔で首をかしげるジンに微笑み、シウォンはグローブを外した手でその頭を撫でた。

「元々僕は特殊部隊にいたんだぞ?歳も歳だから引退して、医者になったんだ」

「トクシュ、ブタイ…?」

にわかには信じられない。その表情はそう語っていた。別段力説するつもりもない。信じようが信じまいがそれは聞き手の自由だ。

「ジン?」

甘えるように預けられた頭。一生懸命考えているのかと思ったがそうではないようだ。かすかに寝息が聞こえてくる。

張り詰めていた神経がプツリと切れたせいだろう。疲れているだろうに病院から抜け出し、その次は命を危険に曝すドライブ。そして到着したかと思えば息苦しい部屋。

ずいぶん怯えていたとホンマンは語っていた。死を目の前にしたらどんな人間でも怯えるのが当たり前だ。珍しく、文句ひとつも言わず腕の中。穏やかな寝息をこぼしながら浮かんだ無防備な寝顔。

「しょうがないヤツだ…」

口ではそういいながらもシウォンはそっと微笑んだ。あとはすべて”父親”に任せようとシウォンは玄関を出た。辺りは騒然としえいるが、一般人は張り巡らされたテープの向こうで興味深げにこちらを窺うばかり。

同じ服に身を包んだ人々が蠢く中、ひとり色の違う男性が独りこちらを見つめていた。

「スンフン」

声をかければ手を上げて答える。ここを動くなという命令を忠実に守っているようだ。

しかし、スンフンとしたら別に命令を守っていたわけではない。痛いのが嫌なだけ。ここにいれば安全だというから動かずにいた。それだけのことだった。

「もう、動いてもいいかな?」

その言い種に呆れたように苦笑を浮かべる。頷けば1歩、スンフンはジンへと歩み寄った。

シウォンに身を任せるジンを覗き込めば、そこには幼い寝顔。思わず微笑みがこぼれる。起こさないようにそっとその身体を受け取り、湿った髪を撫でた。

「おかえり、ジン」

そう囁けばピクリと身体が震える。ゆっくりとまぶたが開き、虚ろな瞳が姿を現した。

「お父さん…?」

いつになく弱々しい声。汗で肌に張り付いた髪を退け、スンフンはそっと頬に口づけた。潤みだした瞳を隠すようにぎゅっと抱きつき、こぼれそうになる涙を堪えるように身体を震わす。

「オ、オレ、頑張ったよ…?諦めなかったよ…?」

「うん、いい子だね」

以前ならば早々に生きることを諦めていただろう。でも、どうしても生きて帰りたかった。死にたくなかった。再び、大好きな人たちに囲まれて幸せな生活を送りたい。その願いだけが生きることへ執着させた。

「もう、無茶なことはしちゃダメだからね?」

「うん…っ」

だんだんと視界が滲み出す。大好きなこの手を振り切って飛び出してしまった。けれどもう、我慢する必要はどこにもない。

優しい香りとぬくもりに身を任せ、ようやく戻ってきた幸せをかみ締めていた。

「それにしても…似合わないね?本当に君、特殊部隊にいたの?」

「おいおいおい、なんて言い種だ?こうしていま、お前の目の前でジンを助けてやったじゃないか」

それすらも疑わしいと視線が語る。確かにここからでは中の様子はわからない。中へ入ったところと、ジンを抱きかかえて出てきたことは確かだがその間のことはどうとでも言える。

「本当にお前は友だち甲斐のないやつだな…」

「冗談だよ。ありがとう」

「最初から素直にそういえばいいんだ。なぜ、いつもなんだかんだと文句をつけたがる?その性格を直さないとそのうちジンにも愛想を尽かされるぞ?」

まどろみかけていたところに聞こえてきた自分の名前。反射的に顔を上げ、シウォンを見つめる。しかし状況が理解できないようで、ジンはゆっくりと頭を傾けた。

「さて、そろそろ帰ろうか?」

「その前に、ジンは病院だな。一応、精密検査を受けたほうがいいだろう」

「…ホンマンも一緒…?」

可愛らしい問いかけに笑顔で頷けば、ジンもまた微笑む。そうして3人は車へと乗り込み、先に病院へと向かったホンマンを追いかけるように車を走らせた。

一通りの検査をしてみたが、腕の裂傷のみで異常はなし。その傷も縫うほどのものではないと、消毒をしてガーゼと包帯で覆われたのみだった。

一方ホンマンのほうは骨折数箇所と、裂傷があったものの命に別状はない。しばし入院が必要になるが、後遺症などはないだろうという話だった。

病室はジンの要望もあり相部屋となった。ベットをふたつ並べ、小さく身体を丸めるようにホンマンを見つめていた。

「痛くない…?」

「大丈夫だ」

痛くないはずがない。そう思いながらも言葉にはせず、飲み込むように目を伏せた。

「あのね、ずっと考えてたんだ…」

「…?」

「どうして、あの人はオレにばっか構うんだろうって…」

言われてみれば確かにその通りだ。以前のヨンチョルならば使えないと判断した時点で切り捨て、その後の一切の干渉を断つはずだ。しかし、今回またもや手を出してきた。単なる復讐とも思えない。

「もしかして、寂しいのかな…?ホンマンもいなくなっちゃって、ずっと独りだから…ホントは寂しくて、だからこんなコトしたのかなって…」

「…」

何も答えられなかった。そもそも、あの人に寂しいなどと言う感情があるのだろうか。そこが疑問だった。確かに人間なのだから、そういった感情があってもおかしくはない。でも、信じたくないという気持ちが強い。

「…一回、話してみようと思うんだ…」

意思は固まっているのだろうに、顔色を窺う。ホンマンは気づかれぬようにそっと息を吐き出した。

「ジンがそうしたいのならそうすればいい。望むなら、オレもともに行く」

「ホント…?」

「…あぁ、本当だ」

独りでは不安だったのだろう。安堵したように微笑み、ぬくもりを求めるように手を伸ばす。

「ありがとう、ホンマン…」

「とにかくいまは寝ておけ。今日は、疲れただろう?」

両手で包んだホンマンの大きな手のひらにそっと頬を摺り寄せる。そしてコクリと小さく頷き、ジンはそのまぶたを閉じた。

たった1日で世界ががらっと変わってしまったようだ。明日からは何かに怯えて過ごすこともない。ただひとつだけ気になることがある。

いつぞやかにホテルで逢ったジンとよく似た青年。彼がまた何か、ひとつ波紋を起こしそうな気がしてならなかった。

しかし、いまはしばしの休息時間。聞こえてきた寝息に安堵し、ホンマンもまた目を閉じた。

疲れもあってか、ふたりともまったく目覚める気配がない。病室へとやってきたスンフンは無防備な寝顔を見下ろし、かすかに微笑んだ。

「…」

夕方にこちらを出ても充分、今日中に自宅へ到着する。もうしばらくは休ませてあげようと、スンフンはイスへと腰を下ろした。

読書をしながら過ごす穏やかな時間。午後2時を過ぎた頃、規則正しかった寝息がわずかに変化した。

持っていた本を閉じ、カバンへと戻す。そしてスンフンはゆっくりと開いていくまぶたを見守った。まだ眠いようでとろんとした瞳。しかし、スンフンを映し出すと幼い笑顔が広がった。

「おとうさん…」

「おはよう、ジン。よく眠れたかな?」

「うん」

両手を差し伸べるジンを抱きしめ、ゆっくりと身体を起こす。大きなあくびをこぼすジンに微笑み、スンフンは隣のベットを見遣った。

やはり、疲労の色が濃いようだ。しかし、ジンの目覚めに気づいてか、ホンマンもまたまぶたを震わせた。

「おはよう、ホンマン君」

「…あぁ」

「ホンマン、大丈夫?どっか痛いトコない?」

ベットから飛び降り、不安げにホンマンの顔を覗き込む。その幼い行動に笑みを浮かべ、ホンマンは問題ないと呟いた。

「さて…まずは食事にしようか?」

「うんっ」

そういえば腹ペコだ。せっかくボアが自分のためにと用意してくれた料理も食べないまま出てきてしまった。帰ったらいただこうと心に決め、元気よくベットから降り立った。

「ホンマン、何が食べたい~?オレ、買ってくる~」

どこに主人を遣いっぱしりにするボディガードがいるのだろうか。しかし、いまは頼まざるを得ない状況だ。生憎と、まだベットから降りることはできない。

「お前が好きなものを買って来い」

「え?でも…」

「オレに好き嫌いはない。だから、お前の食べたいものでいい」

そういわれてしまっては頷くしかない。そしてジンはスンフンとともに病室を後にした。一瞬にして静かになった病室。ホンマンは窓の外を見上げ、そっと微笑んだ。

たまにはこういうのも悪くない、と…。










続く。
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