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Close your Eyes ep.94-11



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












食事を終えた一行はロサンゼルスへと戻ってきた。近くの病院へホンマンを移し、ようやくジンは母国で無事を願っている人々へ連絡を入れることができた。

本当に心配してくれていたのだろう。声を聞くなり、嗚咽をこぼすものもいた。約束を違えることなく、生きてみんなの元へと帰れる。そう実感し、ジンは嬉しそうに微笑んだ。

2週間ほど入院を余儀なくされ、ようやく退院の日。その足でふたりはあの人が拘置されているその場所へと向かった。

「…なんか、緊張するね…」

ぽつりとそこぼすジンの背中に大きな手のひらが添えられる。振り返ればぎこちない笑顔を浮かべるホンマンの姿があった。

シウォンから聞いた話では、あの家から大量のモルヒネが発見されたそうだ。そして身柄を拘束した後、検査を行ったところ、末期がんであることが発覚した。

これでようやく、あの人らしからぬ行動の意味が理解できた。やはり、あの人は焦っていたのだろう。秒読み段階となった命の期限。いったい、どんな気持ちだっただろうか。

そこは医療刑務所だった。通常の病院とはやはりまったく違う。面会受付を済ませ、所持品確認の後、中へと進んでいく。窓には格子がはめ込まれ、どこか重い空気があった。

目的地が近づくにつれ、心臓の音が大きくなっていく。けれど、それは恐怖ではなかった。

「こちらでお待ちください」

そう告げると案内をしてきてくれた人は、再び来た道を戻っていってしまった。そこは待合室のようで、何人かの人々がいた。空いている席へと腰を下ろし、小さく息をつく。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

しばらくして通された面会室。息を呑んで待っていると、特殊ガラスの向こうにある扉がゆっくりと開いた。

こけた頬にやつれた瞳。そして、顔色は想像以上に悪かった。

「…珍しい面会客だな…」

第一声がそれだった。別に謝罪が出てくるとは思っていなかったが、予想外にも普通だ。手で支えながら腰を下ろし、息をつく。乱れた髪が影を落とせば、さらに痛々しい姿に見えた。

「何しに来た?」

「話を、したかったから…」

「話?恨み言を連ねてみるつもりか?」

静かにかぶりを振り、ジンは俯いていた顔をもたげた。そしてその顔を初めて、正面から見つめる。

「なんで、オレに構うんだろうってずっと考えてた。それで、思ったんだ。本当はあなたも寂しかったんじゃないかって…」

「…寂しい?なんだ、それは…下らない」

すぐにでも面会を終わらせたいようで、ヨンチョルはそう呟くと同時に席を立つ。向けられた背中はひどく頼りなく、何かがこみ上げてくる。

「じゃあ、なんであの子をそばに置いておいたの!?なんで、あの子を逃がしたの!?わかるように、説明してよ…っ」

以前ならば、捨て駒として容赦なく利用して切り捨てただろう。それはソンミンを例に挙げればすぐにわかる。そうしなかったからには、何か理由があったはずだ。

「理由?そんなものはない。なんとなく、そうしただけだ」

「そんなワケないっ!あなたが理由もなく、なんとなくて行動するなんて絶対にない…っ」

「そう思いたいのなら、そう思っていればいい。二度とここには来るな」

抑揚のない声で、そう告げる。そこにいるだけで恐ろしかったはずなのに、いまは何も感じられない。まるで抜け殻のようだ。

なぜか、涙が溢れてきた。姿はすでに扉に隠され、この目で見ることは叶わない。話をしたいと思ってきたのに、ほとんど会話もできなかった。

「ジン…」

肩を抱き、その悲痛な横顔を見つめる。いつまでもここにいるわけにはいかないと、ホンマンは外へと促した。

いま、ジンの心を癒せるのはひとりしかいない。

車へと乗り込み、ホンマンは行く先も聞かずに車を走らせた。駐車場へと車を止め、運転席から降り立つ。そして後部座席の扉を開け、身体が軋むことも構わずに子どものように泣きじゃくる幼い主を抱き上げた。

「おかえり」

あたたかい微笑で迎えてくれたその人にジンを託し、ホンマンはかすかに頭を下げた。何も言わずとも、彼ならわかるだろう。

扉を閉めると、嗚咽は聞こえなくなった。壁に寄りかかり、天井を見上げながら息をつく。やるせない思いばかりがこの胸を締め付けるようだった。

数日ほどふさぎ込んでいたが、吹っ切れたようだ。まだ少し名残はあるが、そこにはちゃんと笑顔があった。

「お父さ~んっ」

「おかえり、ジン。今日は何をして遊んできたのかな?」

「ボアちゃんとケーキバイキング行ってきたの~。全種類制覇だよ~」

ユファンも一緒に行きたかったようだが生憎と外せない講義。ふたりきりでホテルのレストランで催されているケーキバイキングに行ったのだった。

「それはスゴイね。何種類くらいあったのかな?」

「30種類くらいあったの~」

いくらなんでもそれは食べすぎだと苦笑をこぼす。しかし、ジンが楽しいのならいいだろうと思いなおした。お土産だと差し出された小さな箱。中身は見ずともわかる。

「ありがとう。あとで一緒に食べようね?」

「うんっ」

そんなときだった。廊下を横切っていく姿を見つけ、ジンは目を輝かせた。足音を立てず、気配を消して歩み寄り、ジンは後ろから思い切り抱きついた。途端に身体が浮かび上がり、天地が逆さま。

きょとんとしたまま廊下へとしたたかに腰を打ちつけた。ぎょっと目を見開いて見下ろす双眸。だんだんと感覚が現実へと戻り、痛みがこみ上げてくる。

「…っく」

「ジ、ジン!?わ、悪かったな。ほら、泣くなっ」

背後から近づいてくる不穏な気配。振り返らずとも誰だかはわかる。シウォンが唯一、この世で敵に回してはならないと思っている人物だ。

「君は、僕の息子になんてことをしてくれるんだい?」

「わ、わざとじゃないんだ!知っているだろう!?僕は後ろから抱きつかれると反射的に投げ飛ばしてしまうんだ!お前だって何度となく目撃しているじゃないか!」

必死に弁明をしてみても白い目は止まない。床に転がったまま立ち上がることもできず、子どものように泣きじゃくるジンを懸命にあやしてみても泣き止む様子は一切なかった。

「おい、スンフン!見てないで助けてくれたっていいだろうっ!?」

「ジン、おいで?こんな怖いおじさんなんか放っておいて、部屋に戻ろうね?」

するりとジンの身体をシウォンの腕から抜き取る。そして必死に弁明し、食い下がるシウォンを煩わしそうに一瞥する。

そんな折だった。駆け寄ってくる足音にスンフンとシウォンは同時に顔を上げた。誰だろうかと首を捻るスンフンに反して、シウォンは親しげにその名前を呼んだ。

「ヨンハ、どうしたんだい?そんなに慌てて」

「先輩、大変です」

乱れた呼吸を整えるように深く息を吸い込み、姿勢を正す。そしてスンフンの腕の中で泣きじゃくるジンへと視線を送った。

「パク・ヨンチョルの死亡が先ほど確認されました」

すべての時が止まってしまったかのようだ。痛みも忘れ、ジンもまた呆然とヨンハを見つめていた。頭で考えるよりも早く動き出す。スンフンの腕を飛び降りたジンは一目散に駆け出した。

「ジン!」

このまま黙って見送ることなどできない。ふたりは同時に走り出した。両脇を同時に通り抜けられ、ひとりヨンハだけが取り残される。しばし呆然とした後、彼もまた先を行く3人を追いかけていった。

嘘だといってほしい。そう心は願っていた。まだ、何もわかっていない。何も話せていない。それなのに、逃げるようにひとり旅立つなど絶対に許せない。

そしてジンは数日前に訪れたその場所へと駆け込んでいった。受付のテーブルに身体を押し当てるようにして勢いを殺す。

「パク・ヨンチョルは!?」

「ジン」

ようやく追いついたときにはすでに息切れ状態だ。これ以上逃がしてはならないと手をしっかりと握り、もう片方の手を膝について荒い呼吸を繰り返す。

さすがにシウォンも息が上がっているようだ。唯一無事だったヨンハはひとつ息をつき、身分証明書を提示した。

「パク・ヨンチョルの安置室はどこでしょうか?」

「ご案内致します」

こういうとき、この身分証明書が一番効力を発揮する。そのほかではあまり使用できないせいもあるだろう。わざわざ自分が特殊部隊の人間だと誇示して歩く人間はいない。

案内されたのは以前通された面会室とはまったく違っていた。しんと静まり返ったがらんどう。その部屋の真ん中にはストレッチャーのようなベットがひとつ。そこに彼は横たわってた。

走り出そうとしていた足がそこに縫い付けられてしまったかのように動かない。しかし、認めようが認めまいがこれは現実だ。逃げることはできない。

「…」

すべての感情の色を失った瞳。青ざめた顔のまま、ジンはゆっくりと進みだした。そしてベットの傍らで足を止め、その人を見下ろす。

「なに、これ…」

強張った表情で、吐き捨てるようにそう呟く。血の気の失せた表情で横たわるその人はもう二度と動くことはない。わかっているのに、心は納得してくれなかった。

「ねぇ、起きてよ…。どうせ、また猿芝居なんでしょ?さっさと起きてよ…」

「ジン…」

「起きろよっ!」

胸倉を掴み、乱暴に揺するその姿を呆然と見ていた。しかし、犯罪者とはいえそれは死者に対する冒涜だ。ふたりがかりで引き剥がせば、今度は抜け殻のようにその場へと膝をついた。

「なんで…っ。まだ、なんにも話せてないのに…っ」

もう一度ここに来ようと決意した矢先のことだった。人の裏をかくのが得意なこの人らしいと言えばそれまでだが、しかしこれはあまりにも残酷だ。

どこかで生きているならまだしも、もう逢うことすら叶わない。空虚感が心のど真ん中へと居座り、すべての思考回路が停止してしまっていた。










続く。
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