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Close your Eyes ep.94-12



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












しばらくして落ち着いたのか、じっとスンフンに身を任せていた。瞳は虚ろなまま、こぼれる涙を拭おうともしない。ただ、その眼差しはずっとベットの上に横たわるその人へと向けられていた。

「スンフン、ジンをつれて来い。いいものがある」

それは遺品を確認していたシウォンから発せられたものだった。微動だにしないジンを抱き上げ、スンフンはその言葉に従った。

「ほら、ジン。これを見ればきっと、この男の心がわかるぞ?」

「…」

それは1冊の古びた本だった。垂れていた腕がゆるゆると持ち上がり、その本を手にする。相変わらず頭はスンフンの肩に預けられたままだが、興味は惹かれたようだ。

何度も開いたのだろう。表紙は薄汚れ、中は黄ばんでいた。ふと、一箇所に開き癖がついていることに目を留める。たどたどしい指先がなぞるようにページを開く。そしてジンは目を見開いた。

「おかあ、さん…」

それは忘れもしない、母親の姿だった。修復した写真はいつも財布に入れて持ち歩いている。その写真よりも少し幼さの抜けた顔がそこにはあった。そして彼女が抱く赤ん坊。

「…っく」

彼女が抱く赤ん坊などひとりしかいない。それは唯一、幼いジンを写したものだった。幸せそうに笑うその表情を見れば、誰がカメラを構えていたのかは容易に察しがつく。

こぼれる涙がページを濡らしていく。それでもジンはその写真から目を離せずにいた。

「ジン、よかったね?」

自分によく似た青年がそばにいた。ただそれだけのことだが、淡い期待を抱かずにはいられなかった。そしてその期待は真実だったと裏付ける証拠がひとつ。それだけで心は満たされていった。

見守っていたふたりもまた、微笑まずにはいられなかった。とんだ悪党だと思っていたがそんなことはない。やはり、子を思う心はしっかりとこの冷酷な男にも息づいていたのだろう。

「ん…?」

またひとつ、シウォンが何かを見つけたようだ。手にしたのは小さな鍵。なんなのかと首をかしげながらスンフンを振り返ってみたが、やはりわからないようだ。

「貸金庫の鍵のようですね…。調べればどこの銀行のものかわかると思います」

「じゃあ、これはヨンハに任せよう」

一歩、離れた場所で様子を見ていたヨンハに鍵を託し、シウォンはまた物色を始める。しかし、あとは特に目ぼしいものはなかった。若干、荷物の少なさに驚いたくらいだ。

「ここ、電話通じる…?」

「通じるよ。どこに電話するのかな?」

「お、おじぃちゃん…」

スンフンの腕から降り、自らの足で立つ。こぼれる涙を拭い、ポケットにしまわれていた携帯電話を取り出した。そして少し離れたところへと駆けていった。

視線はジンへと向けたまま、表情も変えずにスンフンはシウォンへと一歩身を寄せた。

「あれ、まさか君が仕込んだものじゃないだろうね?」

「うん?まぁ、仕込もうかと考えていたのはこっちだ」

手をポケットへしのばせ、少しだけ引っ張り出してみる。それは隠し撮りのようなジンの写真だった。どこで撮ったものかはわからないが、最近のもののようだ。

「だが、余計な細工はいらなかったみたいだな」

ジンを元気にさせるためなら、嘘も工作も厭わないつもりだった。しかし、ちょうどいいと手に取った本であれを見つけた。奇跡のような偶然だ。

「彼も、人の子だったということだな」

「…そう」

電話を終えて戻ってきたジンの顔には笑顔があった。まだ瞳は濡れているが、とても嬉しそうだ。

「おじぃちゃん、連れて帰ってきてくれてもいいって。お母さんと同じお墓でいいって言ってくれた~っ」

「よかったね?」

「うんっ!」

きっと、ジンの祖父は内心複雑だろう。しかし、愛する孫の願いを自分の感情ひとつで足蹴にすることはできない。いまだ後ろめたさを背負っている祖父の心を考えれば容易に想像がついた。

だが、それを感づかれてはならない。ようやく戻ったジンの笑顔を消すことような真似はできなかった。

「ねぇ、ねぇ、ヨンハさん。お父さん、一緒に帰っても大丈夫?」

「…はい。手続きはこちらでしておきます」

殺されかけたというのに、どうしてここまで優しくなれるのだろうか。もし、自分ならば許すことなど絶対にできない。勝手に共同墓地にでも放り込んでおけと言ってしまいそうだ。

「よかったね、お父さん。お母さんと一緒だよ?きっと、向こうで会えるね」

ベットの傍らへ駆け寄り、硬くまぶたを閉ざしたままのヨンチョルへと語りかける。それを聞きながら、スンフンもまた複雑な想いを抱いていた。

「どうした?」

「…なんかちょっと、ね」

「自分以外に向けられた”お父さん”という固有名詞が許せない…と言ったところか?ずいぶん心が狭くなったものだ。それに、治療の枠を超えているように思えるが?」

確かにその通りだ。目を伏せながら苦笑を浮かべ、スンフンは気持ちを入れ替えるように一歩を踏み出した。そしてジンの隣に並び、その人を見下ろす。

「ジンは、僕に任せてゆっくりお休みください。あなたができなかったことすべて、僕が代わりにします」

それはせめてもの情けだった。様々な恨みやつらみをすべて飲み込み、そう告げる。不思議そうに見つめていたジンはわずかに頬を赤らめ、スンフンの手を取った。

「先輩、オレは戻ってこのカギの照合をしてきます。おそらく、明日中には回答できると思いますんで」

「あぁ、頼んだぞ?」

「はい」

あえて声はかけず、ジンとスンフンに対しては会釈のみで立ち去った。しばし寄り添うふたりの背中を見ていたが、ここに自分がいるのもおかしいとシウォンもまた部屋を出た。

「もしもし?僕だ。今日はスンフンとジンを連れて行くから、夕飯は多めに用意しておいてくれないか?…あぁ、そうだ。いつもワガママを言ってばかりですまないな。…そうか?ありがとう。じゃあ、また帰る前に連絡する」

通路に設置されたソファへと腰を下ろし、小さく息をつく。世話の焼ける親子だ。そう心の中で呟きながらも、その微笑みはどこか朗らかとしていた。

1時間ほど立ったころだろうか。わずかな遺品を手に現れたジンとスンフンを連れ、シウォンは車へと乗り込んだ。いったんは職場に戻ったが、白衣を置いたのみ。そして再び車で自宅へと向かった。

電話で告げたとおり、テーブルの上にはたくさんの豪華な料理。そしてジンのためにとケーキが用意されていた。

お腹を満たしたかと思えば部屋の隅に横たわり、持ってきた遺品を飽きることなく見つめる。とてもいがみ合っていた親子とは思えない光景だった。

その様子に見入っていると、テーブルの上に放置していた携帯電話が鳴り響いた。ディスプレイには日中別れた後輩の名前があった。

「もしもし?…わかった。じゃあ、明日の朝9時銀行の前で待ち合わせにしよう。…あぁ、僕もついていくから心配するな」

通話を切ればスンフンの視線とかち合った。言いたいことはなんとなくその眼差しでわかる。

「シティバンクだそうだ。今日は泊まっていけ。明日の朝、僕も一緒に行く」

あえて何も言わず、スンフンは小さく頷いた。ボアと一緒になって亡き父の心に触れるジン。少し寂しげだが、微笑みはある。無理をしている様子はない。

しかし、不安はまだある。貸金庫にいったい何が預けられているというのだろうか。それがジンの笑顔を壊すものでないようにと心ひそかに願うしかなかった。

朝起きて、いつものようにスンフンとともにシャワーを浴びる。そしてボアの作った朝食を取って外に出ると話を聞きつけたホンマンが車へ寄りかかるように佇んでいた。

そして3人の姿を認め、静かに後部座席を促す。きっと、ホンマンもまたスンフンやシウォンと同様、危惧しているのだろう。その硬い表情を見ればすぐにわかる。

待ち合わせ場所に到着したのが約束の時間5分前。早めに行動したつもりだが、相手はすでに待ち構えていた。

「お待ちしてました。支店長に話を通し、中で待機してもらっています」

まだ開店前の銀行。裏口から中へと進み、案内されるまま貸金庫室へと向かった。厳重な扉の前で待っていた支店長は一礼し、開錠すると中へと導いた。

ヨンハは預かっていた鍵をジンへと差し出した。躊躇いながらもそれを受け取り、支店長へと見せる。記された番号を確認し、さらに奥へと進んでいった。

「こちらがパク・ヨンチョル様の貸金庫になります」

それは最も小さな貸金庫だった。しばらくそれを見つめていたジンが不安げにスンフンを振り返る。視線を受けたスンフンが頷く。そしてジンは意を決したように貸金庫を振り返り、鍵を差し込んだ。

カシャンという乾いた音が響く。そしてごくりと生唾を飲み込み、ジンはゆっくりと扉を開いた。中には白い封筒がひとつ。それとまた違う鍵があった。

「これ、ウリィ銀行のカギだ…。オレも同じの持ってる…」

しかし、気になるのは鍵よりもこの封筒だ。丁寧にそれを取り出し、封筒を見つめた。真っ白な封筒には何も記されていない。

「ペーパーカッターってありますか…?」

「上にございます。戻られますか?」

「…はい」

鍵はなくさないようにと財布の中。そして封筒を両手で持ち、ジンは支店長の後を追いかけていった。特別室へと通されて、1分足らず。支店長はジンの要望どおり、ペーパーカッターを手に戻ってきた。

「お待たせいたしました」

「ありがとうございます」

皆の視線を一身に浴びながら、ジンはペーパーカッターを差し込んだ。逸る気持ちを抑え、丁寧に口を開いていく。中を見遣ればそこには便箋が一枚あった。

綺麗に三つ折されたその便箋。指が震えるせいでなかなか開けない。まどろっこしさに眉間へ皺を寄せながらも便箋を開いたジンは、びっしりと書き綴られたその言葉に目を通し始めた。

読み勧めていくうちに瞳が潤み始める。肩を震わせるジンを認め、スンフンは静かに歩み寄った。そしてそっとその肩を抱く。

最初のほうはすべて遺産に関するものだった。一緒に入っていた鍵はやはり、ジンが言ったとおりウリィ銀行の貸金庫のもの。そして注目すべきは後半部分に綴られていた。

これを目にしているのが、チュンジェであることを信じて記す。そう前置きをしてずっと隠されていた想いがようやく、皆の元に曝された。

母国での一連の事件への謝罪から始まっていたその文章。最初は私利私欲のためだけだった。イタリアで敗北し、二度と関わらないことを胸に誓った。

しかし、末期がんという宣告を受け、真っ先に浮かんだのがジンの顔だったという。

だが、あんな仕打ちをしてしまったのにどんな顔で逢いに行けばいいのか、その葛藤が記されていた。祖母の死は予想外だったということと、それに対しての謝罪。

身内の誰かを拉致すれば、ジン自ら出てきてくれるだろうという淡い期待を抱いていた。何もしてやれなかったことを悔やみ、しでかしてしまったことの重大さに苦悩し、ヨンチョルはジンに逢うことを目標に生きてきた。

そしてその願いは果たされた。そっけない態度で締めくくられてしまったが、それでもヨンチョルにとってはかけがえのない瞬間だったのだろう。

泣きじゃくるジンを抱き、寄り添うスンフン。遺書を読み終えたシウォンもホンマンもまたやるせない思いを胸に、そんなふたりを見守ることしかできなかった。










続く。
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