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Close your Eyes ep.94-13



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












その日は1日中塞ぎこんでいた。しかし、翌日には明るい笑顔を見せてくれるようになっていた。だいぶ、心も強くなったようだ。

「お父さん、オレそろそろ帰るね?早く、お母さんに逢わせてあげなきゃ」

「…僕も一緒に行っていいかな?」

「…」

きょとんとした顔。その申し出は意外だったのだろう。なぜなら、言った本人も自分の言葉に驚いていたからだ。

「うん。でも、お仕事は?オレ、今日の最終便で帰るけど…」

「大丈夫だよ」

何も心配はない。きっと、シウォンは文句を言いながらも許可してくれるだろう。なんとなく、そんな気がしていた。

チケットの手配をし、定時で仕事を終わらせたスンフンは渡韓準備をすべく自宅へと戻った。そして着替えなどを積み込み、隣の部屋を訪れる。

「スンフン兄、どうしたんだ?こっちに来るなんて珍しいぞ」

「少しの間、韓国に行ってくるよ。すぐに戻るから心配しないでね?」

「韓国?オレも行くっ!」

荷物をまとめようと部屋へ駆け込もうとするユファンを引きとめ、スンフンはそっと微笑んだ。

「試験受けなかったら留年だよ?」

「…それは、困る…」

「いい子で待ってて。すぐに帰ってくるから」

髪をなでながら優しく囁けば、唇を尖らせたままユファンは渋々首肯した。せめて見送りくらいはと、駐車場まで足を運ぶ。そして車が見えなくなるまで手を振り続けていた。

一足先に空港へとたどり着いたジンは目を見開き、呆然としていた。それはホンマンも一緒だ。慌しく行き交う人並みを遮るように足を止め、ふたりは瞬きも忘れてその人を見つめていた。

「ここで、待ってれば兄さんに逢えるって…あの方が、言ってたんだ…」

トレードマークであるはずの笑顔はない。か細い声で青年は囁くようにそう告げた。

「兄さんなら、僕を見捨てたりしないって…」

ヨンチョルがいった言葉は絶対だ。しかし、そんな保障はどこにもない。縋るような思いで青年はジンを見つめた。

「…うん。見捨てたり、しないよ」

「ホン、ト…?」

「…うん。父さんとの、約束だから」

直に交わした約束ではない。もしかしたら都合よく使われているだけなのかもしれない。でも、そんなことはどうでもよかった。目の前の青年は他人ではない。もうひとりの自分だ。

「名前、チュンジェでイイかな…?」

「え…?でも、それ…」

「いいの。オレには、おっさんからもらったチョンジンっていうカッコイイ名前があるから。お父さんがつけてくれたチュンジェっていう名前はあげる。大事に使ってね?」

呆然と見開かれた瞳から、ポロポロと流れ落ちる涙。しかし、それは悲しみの涙ではない。一瞬だけ頬が痙攣し、それは次第に笑顔へと変わっていった。

「兄さん…っ」

この青年には名前も戸籍もない。なぜなら、母親を持たない生命体だからだ。まだ、実験段階のクローン技術。それをも駆使してヨンチョルは息子をそばにおきたかった。

あの手紙を鵜呑みにするわけではないが、そう信じたかった。ちゃんと愛されていたんだと、信じていたかった。信じるという想いが唯一実の父親であるヨンチョルと繋がっている証のように思える。

躊躇いがないわけではない。気持ちは緩やかに変化しているが、自分の顔が嫌いなのは相変わらずだ。こればかりはもうしばらく時間がかかるだろう。

手を差し出せば、青年の手がそっと重なった。同じ遺伝子を持つ本当の意味でのもうひとりの自分。ドンワンともユファンともまったく違う存在だ。

まったく…。

人がよすぎるのにも限度がある。主の決めたことに口出すつもりはないが、そう思わずにはいられない。やっとひとつ厄介ごとが片付いたというのに、また増えてしまった。

しかし、それもジンのいいところなのだから仕方がない。そっと息をつき、ホンマンはかすかに微笑んだ。その瞳には躊躇いながらも身を寄せるふたりの姿があった。

「ジン君」

投げかけられた声に顔を上げ、その人を振り返る。そしてその人は驚愕に目を見開いた。

「お前は…」

「だ、大丈夫!もう、この子は何もしないから…」

「…」

あの場にいなければよかったと切に思う。内容を知らなければ、今回の事件に重要参考人としてこのまま警察に突き出していただろう。しかし、知ってしまった以上もう何もできない。

甘いと罵られるかもしれないが、こればかりはどうしようもない。必死に訴えかけるジンの瞳を無視することはできない。それに、この事件は闇に葬られてしまったのだから…。

「遺体はすでに積み込んである。向こうにも連絡がしてあるから問題はないだろう」

「あ、ありがとう…」

「それで…その子はどうするんだ?パスポート、ないんだろう?」

確かにその通りだ。どうするつもりなのだろうかと振り返れば、ジンはカバンの中からふたつのパスポートを取り出して見せた。

「い、いつも、持ち歩いてて…」

それはどちらも正規ルートで発行されたパスポート。当たり前だ。戸籍はちゃんとふたつ存在しているのだから、申請さえ出せばすぐに手に入れられるだろう。

関わったことを後悔するように、深いため息をこぼした。このまま見過ごしてもいいものかと、葛藤がこみ上げてくる。

「どうかしたのかな?」

遅れてやってきたスンフンはただならぬ雰囲気にホンマンへと声をかけた。経緯を聞き、なるほどと小さく呟く。それならば話は簡単だ。あまり借りは作りたくないが、他に方法もない。

携帯電話で二言三言会話をし、通話を切る。そして5分後、空港内部からスーツ姿の男女が現れた。

「シン・スンフン様ですね?お話は伺いました。どうぞ中へお入りください」

「ジン、おいで?」

パスポートをふたつ持ったまま顔をひょっこりと持ち上げる。チュンジェの手を引き、ジンはスンフンへと歩み寄った。

「ヨンハ君。君は何も聞かなかったし、見なかった。いいね?」

「…了解です」

たかだか誘拐事件で特殊部隊すら動かしてしまうほどの人間。歯向かうのはよろしくない。去っていく4人を見送り、ヨンハは小さく息をついた。

そしていまの出来事など本当にすべて忘れてしまったかのように、空港を後にした。

出国審査もなければ、入国審査もない。管理局など素通りに近かった。不思議そうに見つめてくる2対の瞳。いつの間にか二児の父親になってしまったようた。

「ジン、チュンジェ。早くおいで」

同じ顔を持つふたりは視線を交わしあい、こくりと頷いた。そして小走りにスンフンへと向かい、その隣に肩を並べる。

無言の帰国となった実の父親を連れ、葬儀場へと直行した。

亡くなってから日数が経ってしまっているため、すぐさま荼毘に付された。その間、待合室で無言のときを過ごしていた。

真っ白な骨のみとなったその身体。丁寧ひとつずつつぼに収め、車へと戻っていく。あとは母の眠るあの場所へ還すのみだ。

そこにいるのは、アメリカから来たばかりの3人だけ。本来ならば、祖父やドンワンを呼ばなければならないのだろうか、それはなんとなく気が引ける。

断りだけいれ、自分たちの手でその身体を亡き母親の傍らへと埋める。そして3人は無言のまま手を合わせた。ここには言葉など要らない。そう、それぞれに思っていた。

ちらっと振り返れば、そこには顔を隠したチュンジェの姿。どこか思いつめている風だった。

当然といえば当然だ。最後まで一緒にいたのは他ならぬ彼本人だ。ヨンチョルの命令であの場所を離れ、しばらく彷徨った後空港でジンのことをずっと待っていた。

一番惜しいのは、最期のそのときまで一緒にいられなかったことだろう。その後悔が、ヨンチョルの眠る場所を映し出す瞳から感じられた。

「なんか、呆気ない…」

「うん、そうだね…」

本当ならばもっとたくさんの人々が参列するのだろう。しかし、いまはこうして密葬するほかない。犯罪者となってしまっている以上どうしようもなかった。

「しばらくの間、ホテル住まいになっちゃうけど…大丈夫?」

「何が…?」

「だって、独りだから…」

ジンの言葉の意味がさっぱりわかっていないようだ。不思議そうに首をかしげ、真意を読もうと真っ直ぐに瞳を見つめ返す。

「独り、寂しくない…?」

「別に…大丈夫だよ。慣れてるし」

「…」

以前ならばその通りだと頷けたが、いまはできない。ジンは静かに繋いだ手を引き寄せ、チュンジェを抱きしめた。

「兄さん…?」

「少しだけ、時間ちょうだい…。みんなに紹介して、家に住めるようにするから…っ」

なぜかはわからないが、ジンが泣いているような気がした。それに気づくとなぜか、呼応するようにチュンジェの瞳も潤み始める。

胸が締め付けられるような痛みをはじめて覚え、チュンジェは紛らわすようにぎゅっと皺になるほどジンのジャケットを握り締めていた。

その様子を無言のまま見つめていたスンフンは目を伏せ、そっと微笑んだ。その微笑みはまるで、またひとつ成長した息子を祝福しているようだった。



君にも教えてあげる。

僕がみんなに教えてもらった、いろいろな想いを…。










written by.yue
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テーマ : BL小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント

No title

ジンと父親の間にあった壁と言うか溝と言うか、は無くなったけれど、この事をドンワンが知ったらどう思うんだろう…
「あの人」に愛されたかった訳ではないにしても、最後に思い出してもらう事も無かったかもしれない…ジンは愛され、自分は必要とすらされなかった。その事実が今後の二人の関係に悪い意味で影響しなければ良いですが…

すみません。ドンワン脳なもので σ(^_^;)
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