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Close your Eyes ep.96-1



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












夢は現、現は夢。

この瞳に映るすべてが僕の真実…。
 


自宅へと帰れば、待ち構えていた人々の波に埋もれていく。その姿を認め、ホンマンは静かに車へと戻った。走り去っていく車を人垣の向こうから見送り、ジンはそっと微笑んだ。

しばらくは休養するように。帰りの車内でジンはホンマンへと告げた。

もう危険なことはほとんどない。いままでのように四六時中そばにいなくても大丈夫だろう。しばし考えた後、ホンマンは無言のまま小さく頷いた。

当たり前の平穏がこんなにもありがたいものなのかと実感する日々。あの密室で口にした願いをひとつずつ自らの手で叶えていく。これが幸せというものなのだと素直に感じられた。

ふと、事務所にいたドンワンは走り去っていく車に視線を向けた。アメリカから帰ってきてからというもの、毎日同じ時間帯に出かけていく。

どこに行っているのかと尋ねてみたが、答えは返ってこなかった。なんだか、胸の辺りがむかむかする。まるで消化不良をおこしているようだ。

「ドンワン、また皺が寄ってるよ?」

ひょっこりと顔を覗かせ、眉間の皺を指先で広げる。どうして同じ人間なのに、こんなにも器が違うのだろうか。ミヌの寛大さの1%でも自分にあればと思ってしまう。

「…ジン、どこに行ったんだ?」

「トモダチのところって言ってたよ?」

「トモダチ、ね…」

わけのわからない友達のところへ足しげく通うくらいなら、まだジェジュンのところへ行ってくれてたほうがこの胸のモヤモヤも消えるだろう。

しかし、昨日意を決して連絡を取ってみたが来ていないという。ジフンにも聞いてみたが、心当たりはないようだ。おかげで謎ばかりが深まっていく。

「ドンワン?」

「…なんでもねぇよ」

「そう?」

ふてくされたように唇を尖らせながらそう吐き捨てる。その姿にミヌはクスクスと笑いながら席へと戻っていった。
 


やはり、車はいい。自分で運転できるならなおさらだ。窓から吹き込んでくる風を肌で感じながら、上機嫌な様子でジンは車を走らせていた。

後部座席には彼のためにと買った食糧と服が山のように乗せられていた。駐車場へと車を止め、それらを両手に持ってマンスリーマンションへと駆け込んでいく。

「チュンジェ、起きてる~?」

玄関をくぐり、靴を脱ぎながらそう呼びかける。すると中からひょっこりと青年は顔を出した。

しばらくは時差に苦しんでいたようだが、ようやくこちらの生活になれたようだ。数日前までは眠そうだった瞳も、いまはしっかりと開かれていた。

「おはよう、兄さん」

「おっはよ~。いま、ゴハン作るから待っててね~」

「僕も手伝うよ」

荷物を半分持ち、キッチンへと進む。昨日もおとといも運ばれてきた食料。独り暮らしだというのに、冷蔵庫はまるで大家族のようだ。

「服も買ってきたよ~。ゴハン食べたら、お出かけしようね~?」

「うん」

彼はいまだ、自分がクローンだということは知らない。これから先、言うつもりもない。こうして普通の兄弟のように過ごせればいいとジンは思っていた。

そのためにはやはりみんなへの紹介が必要だ。タイミングがうまく計れず、まだ誰も知らない。どう切り出していいのか、わからずにいた。

「兄さん、これはどうしたらいいの?」

「それは冷凍庫に入れといて、夕飯に食べて~」

「うん、わかった」

毎日のようにここへ来て、たくさんの料理を作っていく。おかげで夕食も朝食もそれで賄えてしまう。冷凍食品までたどり着くにはだいぶ時間がかかりそうだ。

「どこか行きたいトコ、ある~?」

「行きたい、ところ…」

そう呟きながら首をかしげる。こちらの情報はほとんどない。だから行きたいところと言われても、なかなか出てこない。

「お墓…かな?」

「うん。じゃあ、食べ終わったら逢いに行こうね~?」

一昨日も行ったばかり。けれどジンは文句ひとつ言わなかった。チュンジェの意見を受け止め、そう明るく返す。その言葉にチュンジェは知らず、胸を撫で下ろした。

「あと…兄さんの家、見てみたい…。外側だけで、イイから…」

「うん、わかった。じゃあ、見に行こうね~?」

まだ紹介できずにいるのは知っている。だから、ダメと言われるかもしれないと思っていた。しかし、返ってきたのは予想外にも快い回答。俯いていた顔を上げ、チュンジェはそっと微笑んだ。

そしてふたりは出来上がった料理を冷めないうちにと食べ、休憩を挟んだ後、街へと繰り出した。

車で移動するのもいいが、たまには歩いて移動するのもいいだろう。特に、まだこの国に馴染みの薄いチュンジェ。ゆっくりと散策するように進んでいく。

ふと、チュンジェの足が止まる。視線を追いかければそこには一軒の小さなバイク屋があった。

「バイク、欲しいの?」

「…自分で働くようになったら買うよ」

「買ったげるよ?」

その問いかけに心が少しだけ揺れる。しかし、チュンジェは小さくかぶりを振った。そして隣に並ぶジンを見つめ、そっと微笑む。

「自分で買いたいんだ」

「じゃあ、まずはお仕事探さないとだね~。求人雑誌でも買って帰る~?」

「うん」

そしてふたりは再び歩き出す。のんびりと歩きながら、何気なく交わされる言葉。まだ知り合って数日だからか、やはり問いかけが多い。でも、他人行儀というわけではない。

「チュンジェは仕事したことあるの~?」

「ちゃんとした仕事はないかな…?あの方の手伝いをしてただけ」

「そっか~…。どういう仕事したいの~?」

この仕事がしたいというものはない。でも、自分の手でお金を稼ぎたかった。それは、いつまでもジンに頼るわけにはいかないという思いもあるのだろう。

「バイクか車に携わる仕事か…もしくは、医療関係かな…?」

「医療関係?」

「うん。その…父さんが、病気だったでしょう?だから、同じように苦しんでいる人を助けてあげたいなって」

しかし、それには資格が必要だ。生憎と、チュンジェの経歴はあまりよくない。学校に通っていたという履歴もない状態だ。

「心配しないで。働きながら学校に通って、勉強するから」

「わかった…。オレに手伝えるコトがあったら言ってね?」

「うん、ありがとう」

そこには確かな信頼関係があるように思えた。見えない糸がしっかりと心を繋いでいる。微笑を交し合い、ジンはぎゅっとその手を握った。

「これから、いっぱいいろんなコトしようね~?」

「うん」

ひとりではできないことも、ふたりならば乗り越えられる。それはジンが大切な人から教わったことのひとつでもあった。それをチュンジェにも教えてあげたいと、心ひそかに思っていた。

「ジン?」

不意に背後から聞こえた声。くるりと振り返ったジンは首をかしげながら佇んでいるその人に目を見開いた。戸惑うその姿にチュンジェは首をかしげ、ゆっくりとその人を振り返った。

「…」

思わず、その人の顔もまた驚愕に埋め尽くされていく。指を差し、何かを言いたげに口が閉じたり開いたり。ひとり、取り残されてしまったチュンジェはその人とジンを交互に見つめていた。

「ジン、この人は?」

「あ、あの、えっと…トモダチ…の、ヴァネス…」

「初めまして。兄がお世話になってます。弟のチュンジェです」

その名前に落ち着き始めていた心がまたざわめく。とりあえずと入った喫茶店。目の前にはジンと瓜二つの青年。夢なのか、現実なのかがわからない。

「ジン…オレにわかるように説明してくんねぇか…?」

頬を引きつらせながら、震える声でそう問いかける。びくっと身体を揺らし、ジンは繋いでいたチュンジェの手を握り締めた。

まさか、こんな形で誰かに出くわすとは思ってもいなかった。心構えができていない分、言葉が思うように出てこない。

「ア、アメリカで、逢って…。あの人、死んじゃったし…身よりもなくて、戸籍もなくて…兄弟、だし…その、なんていうか…」

「マジで兄弟…?」

「う、うん…」

確かにこんなに似ているのに赤の他人と言われても信じられない。しかし、このふたりはあまりにも似すぎている。これでは兄弟というよりも双子だ。

場所を近くの喫茶店へと移し、ヴァネスはしげしげとふたりを見つめていた。

見た目は二十歳前後だろうか。しかし、ジンよりもだいぶ大人びて見える。出逢ったころのジンを見ているようだ。微笑んではいるが、何かがすっぽりと抜け落ちている。

「何か、ついてる…?」

視線に気づき、チュンジェはそう問いかけた。もちろん、本当にそう思っているわけではない。どちらかといえば値踏みされているような視線だ。

「いや、悪い…。あんまり似てるもんだから、ついな」

当たり障りのない言い訳を言うのかと思えば、予想外にも素直な言葉が返ってきた。チュンジェは小さく頷き、いまだ動揺しているジンを見つめた。

「ジン兄さん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。その、なんていうか、突然すぎて…」

言葉を濁すジンにヴァネスの視線が注がれる。その柔らかな微笑みに優しい眼差し。チュンジェはなんとなく、漠然とだがヴァネスの抱く想いに気づいた。

「僕、邪魔かな?少し、席はずしたほうがいい?」

「ううん!大丈夫だよっ。チュンジェはここにいて」

「でも…」

ジンはそう言うが、相手はどうだろうか。ちらっと顔色を窺えばかすかに苦笑が浮かんでいた。

「変に勘ぐんなよ」

「…うん、わかった」

浮かしかけた腰をイスへと戻し、運ばれてきたアイスコーヒーへと手を伸ばす。ストローを咥えて吸い込めば、冷えたそれがゆっくりと口へ移動し、喉を下降していった。

「そ、そうだ。ヴァネス」

「ん?」

「あのね、お願いがあるの」

珍しい。心の中でそう呟き、ヴァネスは真っ直ぐに向けられたその瞳を見つめ返した。

「チュンジェ、医療関係のお仕事したいんだって。だから、いろいろ相談に乗ってあげてくれないかな?」

「別に構わなねぇけど…医療関係って、具体的にはどんな仕事したいんだ?」

「まだ、決めてないけど…でも、医者とかはいまからじゃ無理だから、看護師とか介護士とか…」

どちらも大変なのはわかっている。けれど、どうしてもそれになりたいという気持ちが心の奥にあった。言葉に迷いはあれど、眼差しに迷いはない。

ヴァネスはそれを受け止め、そっと微笑んだ。

「うちに医学書なら山ほどあるから持ってけば?オレはもう読まねぇし」

「いいの!?」

「あぁ。ただ、一部屋つぶれるほどの量だから、移動するのはちっと大変かもな」

何度もヴァネスの家を訪れたが、そんな部屋は見たことがない。いつもリビングと寝室、それにバスルームを移動するだけで終わってしまった。

「あの…ヴァネスは、医療関係に勤めてるの…?」

「うん。ヴァネスは外科のお医者さんだよ~。オレもいっぱい助けてもらったんだ~」

「そうなんだ…」

いま目の前にいる人物が医者だとは到底思えない。その身なりもそうだし、言葉遣いもとても教養があるようには思えなかった。

「信じてねぇってツラだな…。まぁ、とりあえず近いうちに来れば?」

「ヴァネス、次のお休みは~?」

「明日」

行動するなら早いほうがいい。当の本人であるチュンジェを差し置いて、ジンはすでにヴァネスと明日自宅に行くことを約束していた。










続く。
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