FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Close your Eyes ep.96-3



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












計算はしていないつもりだった。けれど、少なからず下心はあったのだと思う。チュンジェがここへ住まうようになれば、自然とジンがここへ来る回数も増える。それを言い訳に逢う機会を増やした。

しかも、その思いにチュンジェは気づいていたのだろう。ふたりの申し出にチュンジェは一度は躊躇う様子を見せたが、小さく頷いた。

テーブルの上に広げたケーキを囲み、荷物を移動する計画を練る。といっても、大した荷物ではない。ここ数日で買い揃えた着替えなど、必要最低限なものでしかない。

「オレ、すぐ行って持ってくる~」

やっぱり悠長なことは言っていられない。すくっと立ち上がったジンを見つめ、ヴァネスは苦笑を浮かべた。

「いまからじゃ大変だろ?」

「大丈夫だよ~。ヴァネスはチュンジェと一緒にいてあげてね~?」

相当、信頼を得ていると捉えていいのだろうか。答える前に扉は閉ざされ、室内にはふたりだけが取り残された。

「迷惑、じゃない…?」

静寂を破るように聞こえてきた声。振り返ればチュンジェがじっとこちらを見つめていた。疑り深いところはそっくりだ。

ヴァネスはそっと微笑み、自然とその頭を撫でた。

「ひとりで住むにゃちょっとばっかし広すぎると思ってたんだ。ふたりならちょうどイイだろ?」

「…」

確かにひとりで住むには広すぎる。しかし、それが名目であることはわかっていた。視線をずらし、小さく頷く。それ以上チュンジェは何も言わなかった。

「お前こそオレでイイのか?ひとりのほうが楽だってんなら、ジンにちゃんと言ったほうがいいぞ」

「…ううん、大丈夫。兄さんが僕のためを思って取り計らってくれたことだから、きっとそのほうが僕にとってはいいんだと思う」

ひどく複雑な理由だ。では、チュンジェの意思はどこにあるのだろうか。やはり、大事な何かがすっかり抜け落ちている。しかし、ヴァネスはそれを口にできなかった。

「…そうか。じゃあ、今日からよろしくな?」

「うん。こちらこそ、よろしくね…?」

右手を差し出してみれば、しばらく視線のみが注がれていた。どうしたらいいかと悩んでいるようで、かすかに頭が左へと傾く。そして戸惑いながらもチュンジェはそっと右手を重ねた。

ジンが戻ってくるまでの間、不思議なく雰囲気に包まれたその部屋でふたりは言葉を交わす。どれくらい経っただろうか。会話を遮るようにインターホンが鳴り響く。モニターを覗き込めばたくさんの荷物を抱えたジンが立っていた。

『あ、開けて~っ』

やはり、かなりの荷物だったのだろう。声がわずかに震えている。扉を開けたヴァネスはそっと微笑み、玄関へと向かった。エレベーターの前で待ち構えていると到着したエレベーターの扉がゆっくりと開く。

「ヴァネス~っ」

天の助けだといわんばかりに笑顔を浮かべ、荷物を引きずるようにエレベーターを降りる。そして荷物を半分こして部屋へと戻っていった。

「僕、ふとんを担いでいる人初めて見た…」

両手がふさがっているふたりの代わりに扉を開けたチュンジェは思わずそう呟く。聞こえたヴァネスはそっと微笑み、耳元へと唇を寄せた。

「オレも」

他愛もない交流だが、なんとなく一歩近づけたような気がする。笑みを交し合い、力尽きたようにリビングへ倒れているジンへと歩み寄った。

「ジン、生きてるか?」

「もうムリ~、死んじゃう~」

衣類は軽いように見えて、その実重い。しかも、まとめていくつかの袋に分けてくればいいものを、買ったときのまま持っていたようだ。服が入っている袋だけで数十個あった。

動けないジンの代わりにチュンジェが食料を冷蔵庫へとしまっていく。服はクローゼットを買わないと収まりそうにもないということで、また袋に入ったまま床へと並べられた。

「しょうがねぇな…」

口ではそういいながらも眼差しはやはりあたたかい。キッチンに立つヴァネスを見つめ、チュンジェはその隣へと歩み寄った。

「手伝うよ」

「悪いな?」

「ううん、僕のほうこそゴメンなさい」

何がだろうかと振り返ってみたが答えはない。腑に落ちないと感じながらも聞きなおすのも気が引けた。

「お前、手際いいな…」

「兄さんのおかげかな?兄さんがいつも料理作ってくれて、それ見てたから」

「そっか」

しかし、見ていただけでこんなにもうまくなるのだろうか…。

ヴァネスだって幼いころは母親がキッチンに立つ姿を見ていたし、独り暮らしをはじめてからは付き合っていた彼女が作るのを見ていた。しかしいまだ上達する気配はない。

ふたりで協力して作り上げた料理。テーブルに並べ終えればその匂いに誘われ、転がるようにジンが近寄ってくる。

起こしてくれとせがむように伸ばされた手。ヴァネスはいつものことだと大して気にもせずその身体を引き上げた。

「ほら、ちゃんと食え」

昼にあれほど食べ、おやつのケーキもほとんどはジンの胃袋の中。そしていままた、馬車馬のように平らげていく。

初めて見るその様子にチュンジェは少し驚いたようだった。いったいどこに入るのかと確かめるようにジンの腹部を手のひらで撫でてみるが、やはりぺたんこだ。

「相変わらずの欠食児童っぷりだな。誰も取らねぇから落ち着いて食えよ」

3人分と思って作ってみたが、この分ではジンの胃袋しか満たしてくれなさそうだ。夕食はまた改めて作ろうと、ヴァネスは呆れたように箸をおいて頬杖をついた。

「あとでまた作ってやるからな?」

「今度は僕が作るよ」

「そうか?」

つい先ほどまでは客人だったが今は違う。遠慮をする必要もないだろう。それに、することが何もない状態では肩身が狭くなり、居心地がわるくなってしまう。

嬉しそうに頷くチュンジェを見つめ、ヴァネスもまた微笑む。少し不安はあったがうまくやっていけそうだ。

「…ジン、もう8時回ってるけど大丈夫か?」

「ほぇ?」

箸を加えたままくるりと顔だけを動かし、壁にかかった時計を見遣る。そして驚きに目も口も開いていく。転げ落ちた箸が足に当たると同時にジンは顔を青くさせて立ち上がった。

「ヤバイ~っ!」

イスがひっくり返るのも構わず、駆け出していく。

「ジン!足元…っ」

忠告したときにはすでに遅い。わずかに高くなった敷居に思い切り躓き、身体が不自然に前へとつんのめっていく。

その先に待ち構えているものを想像し、チュンジェは思わず顔を背けた。どんっという音と、床から伝わってくる振動。静かになったのを確かめ、閉じたまぶたをそろりと開いた。

「ジン、大丈夫か!?」

受身を取ることすら忘れたようで、フローリングへしたたかに額を打ち付けた。あまりの痛みに声すら出ない。ただ、身体だけが小刻みに震えていた。

「ジン?」

「…っく」

聞こえてきたのはかすかな嗚咽だった。駆け寄ったヴァネスは両手でその身体を持ち上げ、痛みに顔をしかめるジンを覗き込んだ。

懸命に我慢しているのだろう。唇をかみ締めてはいるが、嗚咽が止まらない。涙が一粒こぼれ始めると、もう後戻りはできなかった。

「よし、よし。痛かったな?もう、大丈夫だからな?」

子どもをあやすように抱きかかえ、背中を撫でる。何もできないままチュンジェはただ、呆然とそんなふたりの様子を見つめていた。

泣き止んだジンをソファへと座らせ、赤くなった額に冷却ジェルを乗せる。そしてヴァネスはジンの足へと手を伸ばした。

「少し動かすぞ?」

しゃくりあげながらもその言葉に頷く。それを認め、ヴァネスはゆっくりと靴下を脱がせていった。先端がわずかに赤く染まっていたのに気づいて脱がしてみたが案の定だ。

まるで爪がうろこのように浮かび上がっていた。これでは痛いのも無理はない。指先で軽くそれを動かせば簡単に剥がれ落ちる。

「ちょっとこのまま待ってろよ?」

涙を拭いながら頷き、奥の部屋へと入っていくヴァネスを見送る。遠くから見守っていたチュンジェはそっとジンの傍らへと歩み寄り、隣へと腰を下ろした。

「兄さん、大丈夫…?痛い…?」

「だ、だいじょぶ…っ」

無理をしているのはすぐにわかった。それでも心配させまいとそう告げるジンを見つめ、チュンジェはそっと手を握った。

「僕が代わってあげられればいいのに…」

「ダ、ダメだよ…っ。チュンジェが痛いのはダメだもん…っ」

「心配すんな。爪はまた生えてくっから。それまではちゃんと保護しとけよ?」

小さな箱を手に戻ってきたヴァネスはそう告げ、ジンの目の前へと腰を下ろした。そして足をそっと持ち上げ、自らのひざの上へと置く。

念のため脱脂綿で消毒し、ガーゼと緩衝材になるだろう綿を爪のあった場所へ乗せる。そしてそれを固定するようにテープで止め、軽く包帯を巻いた。

「もし自分でできなかったらオレんとこ来るか、ジフンにやってもらえ。わかったな?」

「う、うん…っ」

痛みはだいぶ治まってきたようだった。まだ瞳は濡れているものの、涙はこぼれてこない。しかし、まだ立ち上がることはできなさそうだ。

「痛むか?」

「…」

ヴァネスの問いかけには素直に頷く。正直なのはいいことだ。そっと微笑み、ヴァネスはジンの身体を持ち上げた。そしてひざの上へ向かい合うように座らせ、優しく労わるように背中を撫でた。

「今度からちゃんと足元見て歩けよ?」

「うん…」

肩の上へあごを乗せ、甘えるようにヴァネスに身体を委ねる。不思議だが、そうしていると痛みは嘘のように消えていった。

30分ほどそうしていただろうか。もう大丈夫だと伝えるように身体を離し、足元を確認しながらヴァネスの上を降りる。そして左足を引きずるように一歩後ろへと下がった。

「ありがとう。オレ、帰るね?」

「あぁ、気をつけてな?」

「うん」

そして今度はチュンジェのほうへと向く。別れを惜しむようにその手を取り、そっと微笑んだ。

「チュンジェ、何かあったら電話ちょうだいね?」

「うん」

「じゃあ、またね?」

笑顔でそう告げ、小さく手を振る。チュンジェもそれに倣い、手を振った。

ひょこひょこと覚束ない足取りで今度は転ばないようにと慎重に玄関へ進んでいく。見送りに出てきたふたりへ再び手を振り、ジンはエレベーターへと乗り込んで行った。

「ったく…騒がしいヤツだな…」

「ゴメンね?兄さんが迷惑かけて」

「迷惑じゃねぇよ。心配すんな」

兄想いのいい弟だ。その優しさに微笑み、ヴァネスはそっとチュンジェの頭を撫でた。するとチュンジェの顔にも自然と微笑が浮かぶ。

「ゴハン、作るね?」

「手伝うよ」

さっきとは正反対の言葉。自然とふたりは手を取り合い、キッチンへと向かって歩き出した。










続く。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : BL小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。