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Close your Eyes ep.96-6



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












本当に迎えに来るのだろうか。

信じていないわけではないが、半信半疑だった。あれだけ躊躇っていたものが急に吹っ切れるとは思えない。もしかしたら紹介は先延ばしになるかもしれない。チュンジェは心の隅でそう思っていた。

しかし、一度言葉にしたことは必ず実行する。携帯電話の着信音に身体を揺らし、チュンジェはテーブルの上においてある携帯電話へと手を伸ばした。

「もしもし?」

『チュンジェ、迎えに来たよ~。早く、降りといで~』

「うん、すぐ行く」

本当は、先延ばしになって欲しいと思っていた。しかし、その願いは叶わないようだ。それに先延ばしにしてもいずれはこの日が訪れる。ならば早めに終わらせておくのが得策かもしれない。

鍵と携帯電話を手に慌しく部屋を出て行く。そしてエントランスを抜ければ白い車が1台。運転席には手を振るジンの姿があった。

「チュンジェ、おっはよ~」

「おはよう、兄さん」

「ミヌがいっぱいおいしいもの作って待っててくれるって~。ミヌの料理、すっごくおいしいんだよ~」

チュンジェの心に反して、ジンにはすでに一切の迷いはなかった。友達を連れてくると伝えてあり、行って驚かせるつもりなのだという。

「ホントに大丈夫かな…?嫌な顔、されない…?」

「大丈夫だよ~。みんな、優しいから。チュンジェは何も心配しないで。オレが守るから」

「…うん」

ジンの言葉はどうしていつもこんなに優しいのだろうか。不安が溶かされていくようだ。

「あ、ちょっと寄り道してイイ~?」

「いいけど…どこに行くの?」

あまり人を待たせるのはよくない。とくに、御呼ばれしている身分なのだから時間が気になってしまう。

「ケーキ買ってくの~」

確かに手土産は必要かもしれない。しかし、財布の中身を思い出したチュンジェは諦めるほかなかった。とても人数分のケーキは用意できそうにない。

ショウウィンドウを眺めながら、チュンジェはため息をこぼした。やはり早急にバイトを始める必要がある。いつまでもジンやヴァネスの世話にはなっていられない。

「チュンジェはどのケーキがイイ~?」

「僕は、なんでも…」

「ダ~メ。ちゃんと選んで~」

躊躇いながらも並べられたケーキを見つめる。しかし、どれもおいしそうでひとつを選ぶのは難しい。

真剣に悩む横顔を見つめ、ジンはそっと微笑んだ。あまり自分の意見を言わないチュンジェ。少しずつ、そこは直していかなければならないことだ。きっとスンフンもそう言うだろう。

任せるのではなく、流されるのではなく、自分の意思を持つ。人の意見を取り入れながらも、自分の気持ちはしっかりと。竹のようにどんなに強い風が吹いても倒れない心を持って欲しい。ジンはそう考えていた。

「じゃ、じゃあ…これがイイ…」

指を差しながら不安げに顔色を窺う。しかし、その不安はジンの笑顔を見ればすぐさま吹き飛んでいった。思わずほっと胸を撫で下ろす。

人数分のケーキを買い揃え、車へと戻っていく。崩れないようにと慎重に助手席でケーキの詰まった箱を持つチュンジェをちらっと見つめ、そっと微笑んだ。

「きっと、みんな喜ぶよ~。好みはばっちり押さえてあるから」

「うん」

これも自分のために用意してくれたのだろう。その優しさに応えなければと、チュンジェは近づいてくる大きな邸宅を見つめた。

以前来たときは外壁だけ。今日初めて踏み入れる敷地の広さにチュンジェはぽかんと口を開いていた。これは想像以上の広さだ。下手をしたら迷ってしまう、そんな気までしてくる。

「到着~。ほら、チュンジェ降りて~。置いてっちゃうよ~?」

置いていくつもりなどない。急かすようにそう言っただけなのだがチュンジェはそれを真に受けてしまったようだ。慌てて車を降り、縋るようにその手を握る。

「大丈夫だよ、チュンジェ。そんなに緊張しないで~」

「だ、だって…」

そうは言われても、簡単に緊張が解けるはずもない。そのせいでいつもの柔らかな笑顔さえ引きつってしまっていた。

「チュンジェ」

くるりと振り返り、そっと強張った身体を抱きしめる。落ち着かせるように髪を撫で、耳元へと唇を寄せた。

「心配しないで。オレはチュンジェの味方だよ?ずっとそばにいるから」

「…」

それは魔法の言葉にも等しい。ジンが味方でいてくれるなら、どんなことも怖くないような気がした。少しだけ腕を緩め、額をこつっと触れ合わせる。

「ね?」

「…うん」

そしてふたりは手を繋ぎなおし、ゆっくりと歩き出した。玄関を抜ければ広いエントランス。ドンワンも来客があるということで、事務所にはいなかった。

「たっだいま~」

元気な声はエントランスに反響し、階段から2階にあるリビングまで到達したようだ。応じる声が聞こえ、パタパタという軽い足音が聞こえる。

「おかえり、ジン。お友だちは…」

半分ほど階段を駆け下りてきたミヌだが、ぴたりと足を止めた。笑顔はそのまま凍りつき、降りてきたときの倍速で駆け上がっていく。

「ミヌ?」

同じように迎えようとしていたドンワンの身体に体当たりをするようにして止まり、ミヌは驚きをそのままにドンワンを見つめた。

「ジ、ジンがふたり…っ」

「は?」

何を馬鹿なことを、心の中でそう呟く。熱でもあるんじゃないかと額に手のひらを当ててみるが、生憎と熱はない。

「ミヌ、どうしたの~?」

軽い足取りで階段を登ってきたジンはドンワンに寄り添うミヌに首をかしげた。

もしかしたら見間違えカも知れない。もう一度確かめようと意を決してジンを振り返る。しかし、その人はジンの背中へ隠れるように寄り添い、なかなか顔を見せてくれない。

「ほら、隠れてちゃダメだよ~。ご挨拶ちゃんとして~?」

「…」

躊躇う気配が背中から感じられる。しかし、ここまで来た以上逃げるわけにもいかない。一歩、足を横へと踏み出し、肩越しにそのふたりを見つめる。

ぎょっと目を見開くふたりにチュンジェは再び背中へと隠れてしまった。

「ドンワン兄貴もミヌもちゃんと挨拶してよ~っ。チュンジェが怯えてるでしょ~?」

「チュ、ンジェ…?」

思わずその名を繰り返す。その名前にソファへ腰を下ろしていたジフンもまた振り返った。しかし、ここからでは顔が見えない。ゆっくりと立ち上がり、ジンへと歩み寄っていく。

深呼吸を繰り返し、勇気を振り絞って再び横へ一歩を踏み出す。そして俯いていた顔を上げ、並ぶ3人を見つめた。

「は、初めまして。弟の、チュンジェです…っ」

きっちり90度、身体を折って深々と頭を下げる。しかし、怖くて顔を上げることができない。怯えるように震える身体をジンの手が優しく包み込んだ。

「ほら、今度はみんなの番だよ~?」

「驚いたな…」

そう呟いたのはジフンだった。一番最初に我を取り戻したようだ。若干、笑顔は引きつっているものの抵抗はないようだ。

「初めまして、チュンジェ君。オレはジフン。ジンの友だちで、お兄ちゃんみたいなモノかな?」

床と自分の足しか見えなかった視界に1本の腕が映りこむ。躊躇いながら顔を上げればそこには笑顔を浮かべて手を差し出すその人がいた。

「よ、よろしくお願いします…」

「よろしく。とりあえず…立ち話もなんだから座ろうか?ほら、ミヌとドンワンもこっちにおいで」

引きずられるように場所をリビングへと移す。呆然と目は見開かれたまま、視線はチュンジェに釘付けだった。

「こっちがドンワンで、こっちがミヌ。ドンワンはジンと母親は違うけど兄弟だから、チュンジェ君にとってもお兄さんになるね」

その話は今は亡き、あの人からも聞いていた。あとひとり、異母兄弟の妹もいるはずだ。しかし、それらしい姿はどこにもない。

「あ、そうだ…これ、チュンジェからお土産だよ~。お昼食べ終わったらみんなで食べようね~?」

差し出されたのは先ほどジンが購入したものだった。違うと言いかけたが、それはジンの笑顔によって遮られた。そうなるともう、黙るしかない。

「ヘソン、これ冷蔵庫で冷やしておいてくれる?」

キッチンで単独準備を進めていたヘソンはジフンの言葉に振り返り、手を拭きながら駆け寄ってきた。そしてミヌやドンワンと同じく、チュンジェを見つめぎょっと目を見開く。

「な、なんだ~っ!?ドッペルゲンガーか!?」

よくそんな難しい言葉を知っているとジフンは変なところで関心をしてしまった。

「ドッペルゲンガーじゃないよ~っ!」

「お、お前知ってるか!?ドッペルゲンガー見たら死んじゃうんだぞ!?」

「だから、ドッペルゲンガーじゃないってばっ!チュンジェはチュンジェだもんっ」

ぷっくりと頬を膨らませ、チュンジェを守るようにぎゅっと抱きしめる。

「み、みんなヒドイよっ!」

これではまるでさらし者だ。みんななら受け入れてくれると思っていたのに、ふたを開けて見ればひどい仕打ち。あまりにもチュンジェが可哀想過ぎる。

「に、兄さん、僕は大丈夫だから…」

「大丈夫なワケないもんっ」

自分のために大切な人たちに腹を立ててくれている。その気持ちはとてもありがたく、居心地の悪さを少しだけ解消してくれた。けれど、これではジンの立場が悪くなってしまう。それはなんとしても避けなければならないことだった。

「ヘソン、ドンワン、ミヌ。チュンジェ君に謝って。これじゃあ、あんまりだでしょ?せっかくオレたちに会いにここまで来てくれたんだから」

ジフンに怒られたことでヘソンがしゅんとうなだれる。受け取ったケーキを両手で持ち、ゴメンと小さな声で呟く。

「オレ、ヘソン。ここでハウスキーパーやってんだ。んでもって、ジンの友だちだ」

「は、初めまして。僕は、弟のチュンジェです」

少し震える声は緊張なのか、それとも恐怖なのか。強張った表情を見ても判別することは叶わない。意を決してここに来ただろうに、こんな待遇では不憫に思えて仕方ない。

「ドンワン、ミヌ」

「ご、ごめんなさい…。突然だったから、驚いちゃって…。初めまして、チュンジェ君。オレはミヌって言います。よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ…よろしく、お願いします」

ドクドクと激しく脈打つ心臓を両手で押さえながら、まだぎこちなさは残っているがミヌの顔に笑顔が浮かぶ。そして差し出される両の手。チュンジェはしばしそれを見つめ、恐る恐るその手を取った。

「嫌な思いさせちゃってホントにゴメンなさい」

「う、ううん。僕のほうこそ、突然来たりしちゃったから…。驚かせちゃって、ゴメンなさい…」

柔らかな手の感触と、穏やかな声音。窺うようにゆっくりと顔を上げ、チュンジェは微笑むミヌを見つめた。

「たくさん料理、用意したからいっぱい食べて行ってね?」

「うん…ありがとう…」

「ジンもゴメンね?もうひどいコトしないから、許してくれる…?」

ぎゅっとチュンジェに抱きついたままのジンへそう投げかければ、涙ぐんだ瞳が姿を現した。そして窺うようにチュンジェを見つめる。

「僕は大丈夫だから、許してあげて?」

「ホントに、大丈夫…?」

「うん」

それならばと小さく頷く。しかし、納得はしていないようだ。確かに大事な弟を紹介しに来たのにこの対応は失礼だ。チュンジェが傷つかないわけがない。

「ドンワン」

残るは独り。驚きは収まったようだが、そこには仏頂面があった。内心、また余計なものをひきつけたとでも思っているのだろう。

しかし、そこは大人だ。深く息をつき、ドンワンは髪をかきあげながらチュンジェを見つめた。

「初めまして。大人気ない対応して悪かったな。今日はゆっくりしてってくれ」

「あ、ありがとう、ございます…」

つっけんどんではあるが、自分の存在を何とか受け入れてくれたようだった。拒絶されなかったことに安堵し、チュンジェはジンを振り返った。そして大丈夫だと告げるようにそっと微笑んだ。










続く。
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