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Close your Eyes ep.96-7



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












最初はぎこちなかった空気も、チュンジェの人柄に触れればそれは穏やかなものになっていった。顔は似ていても、性格は少々違うようだ。

このまま一線を引き続けるのかと思っていたドンワンも最後にはだいぶ打ち解け、笑顔を見せるようになっていた。

「いま、どこに住んでんだ?」

「いまは、その…ジン兄さんのお友達の家に住まわせてもらってて…」

「誰だ…?オレの知ってるヤツ?」

友だちと紹介できる人間など数えるほどしかいない。どうせカンタあたりだろうと予想をしていたが、ポツリと違う名前が飛び出した。驚いたのはジフンだ。

「ヴァネスって…あのヴァネス?」

「え…?ヴァネスっていっぱいいるの…?」

同じ名前の人がいるのだろうかと不安になり、ジンを振り返る。しかしジンは独りしか知らないと首を左右に振った。

「ちょっと驚いちゃっただけだよ。ゴメンね?」

取り繕うようにそう告げ、乾いた笑いをこぼす。

しかし、それを聞いて納得する。少し前までは過去を引きずり、暗く落ち込んでいたというのにここ最近はそれがなくなった。休憩を削ってでも定時に上がろうとするし、飲みに誘ってもいい返事はない。

その理由がいま、ようやくはっきりした。同僚たちが言っていた恋人説もあながち外れでもなかった。しかし、普通の関係ではない。わずかに嫌な予感が胸を過ぎっていった。

「でも、どうしてヴァネスと一緒に住むコトになったの?」

「実は、一番最初にヴァネスに見つかっちゃったんだよね~…。それで、チュンジェが医療関係の仕事に就きたいって言ってて、それならってダメもとでお願いしたらイイって言ってくれたの~」

余程嬉しかったのだろう。幼い笑顔を浮かべ、楽しそうにそう告げる。

「ちなみに…ジン。ここ最近、頻繁に出かけてたのはチュンジェに会うためか?」

「うん。だって、独りは寂しいでしょ~?」

ようやく疑惑が払拭された。ドンワンは安心したように微笑み、同じ顔を突き合わせてなにやら話すふたりを眺めていた。

しかし、こうしてみると少しチュンジェのほうが若そうだ。大学に通っていたころのジンを髣髴とさせる。

「でも…なんでチュンジェなんだ?」

ジフンもまたその疑問を抱いていた。ドンワンの問いかけに賛同するようにジフンは身を乗り出した。

「その…チュンジェも、オレと同じで…。名前も戸籍も、何もなかったから…。オレ、ふたつもいらないし…お母さんがつけてくれた名前消したくなかったし…」

いろいろな想いがあるようだ。懸命に伝えようとするジンにふたりはそっと微笑んだ。別に責めるつもりも怒るつもりもない。ただ少し驚いただけだ。

俯くジンの頭を撫で、ジフンはそっと微笑んだ。その笑顔に安堵し、ジンもまた微笑む。そんなジンを羨ましそうに見つめていると、思いがけずジフンの眼差しにぶつかった。

ばつが悪そうに俯けばもう片方の手が優しく頭を撫でた。同じような笑顔を浮かべるふたりにドンワンは苦笑を浮かべ、そっと息をついた。

すっかり心の溝もなくなったようだった。最初は居心地が悪かった空間も、いまでは実家に帰ってきたかのように落ち着く。

ふと足音が聞こえて振り返ればそこには黄色い帽子を被り、黄色いカバンを持ったその子が立っていた。大きな瞳を何度も瞬きし、ジンとチュンジェを見つめる。

「ねぇね、ぱぁぱがふたり~」

「ぱぁぱの弟だってさ。ほら、ちゃんと挨拶して来い」

「は~い」

パタパタと駆け寄り、チュンジェの目の前で足を止める。そして無邪気な笑顔を浮かべた。

「はじめまして、うぉんたくです」

「は、初めまして。チュンジェです」

「ちゅんじぇ~?じぃじのとこのわんわんといっしょ~?」

身体全体で尋ねるように、左へと傾く。チュンジェもまた同じように首をかしげた。

「あ、あのね。じぃちゃんとばぁちゃんが犬にチュンジェって名前つけてるの…」

すっかりそのことを忘れていた。申し訳なさそうにそう告げ、顔色を窺う。しかしチュンジェは気分を害すことなく、そっと微笑んだ。

「この名前はいろいろな人に愛されてるんだね…。なんか、嬉しいな」

その言葉に胸を撫で下ろす。幼い笑顔を浮かべ、ジンはぎゅっとチュンジェに抱きついた。

「名前だけじゃないよ~。オレ、チュンジェのコト好き~っ」

「え…?あ、ありがとう…」

さらりと告げられた言葉。時間がたつほどに顔が赤くなっていく。俯いて顔を隠そうとすればそこにはウォンタクの大きな瞳があった。

「ちゅんじぇ、かおまっかっか~」

生まれて初めて告げられたその言葉。たった一言で胸が高鳴る。まるでおかしな病気にでもかかってしまったみたいだ。

ふわふわと雲の上を歩いているかのような感覚。それは初めての体験だった。

夢見心地のままチュンジェは家を後にした。来たときと同様、車の助手席に納まる。しかし、そこに強張った表情はなく、代わりに微笑があった。

「どうだった~?」

「みんな、すごくいい人たち…。最初は怖かったけど」

最初と最後ではだいぶ印象が違う。かすかに声を立てて笑い、チュンジェはジンを振り返った。

「素敵な家族だね?」

「うん。自慢の家族~」

「僕も、家族になれるかな…?」

絵に描いたような幸せな風景だった。目を閉じて思い出すだけで笑顔になれる。

「もっちろん。だって、一緒に住むでしょ~?」

「え…?」

「う…?」

当然だと思っていたジンに対して、チュンジェは考えてもいなかったようだ。目を見開き、呆然とハンドルを握るジンの横顔を見つめる。

「あ、あの、えっと…」

戸惑うチュンジェを見つめ、ジンは納得したように目を伏せた。

一緒に住みたいという気持ちは本当だ。できるのなら叶えたい。しかし、それはチュンジェの希望が大前提になる。無理やり、あの家に住まわせることはできない。

「チュンジェがよければの話だよ~。チュンジェはどうしたい~?」

「ぼ、僕は…」

気持ちはすでに決まっていた。けれど、言葉にできない。不快な思いをさせてしまうのではないか、そんな考えが過ぎり、言葉を奪っていた。

「ヴァネスのトコにいたい?」

「…いたい、けど…ヴァネスは、どうなのかな…?僕がいたら、迷惑かな…?」

「じゃあ、一緒にお願いしよっか?ふたりでお願いすればきっとヴァネスにも想いが通じるよ~」

そんな確証は微塵もない。でも、何もしないうちから諦めることもできない。

「そう、かな…?」

「うん」

不安がなくなったわけではない。でも、ジンの力強い答えにチュンジェは勇気を振り絞る。だんだんと近づいてくるマンション。見上げると部屋には明かりが灯っていた。

心に急かされるまま、足早に進んでいく。深呼吸をしてから鍵を開け、ふたりはそろりと中を覗き込んだ。

「た、ただいま…」

か細い声でそう告げれば、今しがた帰ってきたばかりのようで、まだワイシャツを纏っていたヴァネスが顔を出した。

「おかえり。今日は楽しかったか?」

「うん」

「そっか…。よかったな?」

大きな手のひらが優しく髪をなでる。ジフンに撫でられるのも心地よかったが、やはりこっちのほうがいい。チュンジェはそう思った。

「お、お邪魔、し…てます…」

なんとなく入り込めない空気。それを切り裂くように控えめな声が聞こえる。チュンジェの後ろを見遣れば少し離れたところからジンがこちらを見つめていた。

「ずいぶん他人行儀だな?熱でもあんのか?」

「な、ないよっ!」

茶化すような言葉についむきになってそうがなる。くっとかみ殺したように笑い、ヴァネスは頬を膨らますジンの頭も同じように撫でた。

「ちゃんと紹介できたか?」

「うん、できた~」

その答えに笑顔がわずかに曇る。しかしそれは一瞬のことだった。顔を背けたせいでわからなかったのだろう。

「あ、あのね、ヴァネス。お願い、聞いてくれる…?」

「ん?」

改まってなんなのだろうか。不安と期待が入り混じっていくようだ。顔を上げれば不安に視線を彷徨わせる姿。その後ろでジンはなにやら応援している風だ。

「チュンジェ?」

「…ダメ、かな?」

まったく意味がわからない。声は小さい上に、俯いていてはなおさらだ。首をかしげ、もう一度と促すように顔を覗き込む。するとそこにはいまにも泣き出しそうな顔があった。

「どうした?なんかあったのか?」

「ち、違くて…っ」

なんといえばいいのだろうか。心は決まっているのに、言葉が出てこない。しかし、こればかりは自分で言わなければならない気がした。

「ぼ、僕…ここに、いちゃダメ…?」

「…」

震える声で必死に想いを紡ぐ。呆然と目を見開いていると、涙ぐんだ瞳のままチュンジェは答えを求めるように顔を上げた。

「僕、ここにいたい…っ」

チュンジェの存在が皆に伝われば、この生活は終わるのだと思っていた。早ければ明日にでも出て行くのだろう、そう思って帰ってきた。だから、このチュンジェの申し出は予想外以外のなにものでもない。

「ヴァネス…お願い…っ」

嘆願するようなその声音。後ろを見遣ればジンもまたチュンジェの願いが叶うようにと祈っているようだった。手を組み、ぎゅっと目を閉じて声には出さず何かを呟いている。

どうやら、イタズラでもなく本気でそう言っているようだ。そう実感すると、自然と笑みが浮かんできた。参った、心の中でそう呟く。
答えを待つチュンジェの身体は怯えるように震えていた。その姿に破顔し、ヴァネスはそっと頬へと手を伸ばす。そして優しくその顔を包み込んだ。

「好きなだけいろよ」

「…」

ぎゅっと閉ざされていたまぶたが開き、濡れた瞳がヴァネスを映し出す。何度も何度もヴァネスの言葉を頭の中で繰り返す。そしてようやく理解したチュンジェは幼い笑顔を浮かべた。

「ヴァネス…っ」

この喜びをどう表したらいいのだろうか。考えるよりもさきに身体が動いていた。ぎゅっとヴァネスへ抱きつき、うなじへと顔を埋める。突然のことに驚きながらも、ヴァネスは優しくその身体を包んでくれた。

その後ろではジンがよかったと呟きながら涙をこぼす。その様子にヴァネスは苦笑を滲ませた。よくも悪くも、この兄弟には振り回されてばかりだと…。



この幸せが夢ならどうか覚めないで。

この幸せが現実なら、途切れることなく永遠に…。
 









written by.yue
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