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Close your Eyes ep.98-3



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












飛行機に乗ってしまえば、アメリカまではあっという間だ。仮眠を取り、なつかしの地へと足を踏み入れる。そんなに思い入れがあるわけではないが、やはり帰ってきたという思いが少なからずあった。

「チュンジェ、こっち~」

「うん」

手を繋ぎ、人並みを縫うように進んでいく。そしてレンタカーへと乗り込み、スンフンの待つ病院へと向かった。

車から降り立てば、一目散に建物へと進んでいく。ふたりを見送りながら、ホンマンは小さく息をついた。手を繋ぎ、引きずられるように去っていくチュンジェの姿。思わず同情してしまう。

行く場所はひとつ。しかも、もう心配することは何ひとつない。後からゆっくり追いかけようと、ホンマンはタバコへと手を伸ばした。窓を開け、車内でゆっくりと紫煙を漂わせる。

平和なのはいいが、このままでは仕事がなくなってしまいそうだ。

ようやく得られた平穏な日々にそう心の中で悪態をつき、ホンマンは小さく微笑んだ。

受付を通り過ぎ、そのまま足早に廊下を進んでいく。ゆっくり見て回りたいが、いまはそうも言えない。引きずられるままチュンジェは部屋の中へと雪崩れ込んだ。

「お父さんっ!」

叫ぶなり手が離れていく。白衣姿の男性が微笑み、飛びつくジンを容易に受け止めた。かなり体格の差があるというのに微動だにしない。チュンジェは驚きを隠せなかった。

「おかえり、ジン。いい子にしてたかな?」

「うん。オレ、いい子~」

軽々とその身体を抱き上げ、微笑む頬にそっと口づける。そしてスンフンは所在無げにしているチュンジェを見つめた。

「チュンジェもいい子にしてたかな?」

「う、うん…」

差し伸べられた手。しばしその手とジンとを交互に見遣り、チュンジェは躊躇いながらもその手を取った。どうしたらいいのかわからないまま抱きすくめられ、かすかに身を強張らせる。しかし、その緊張は一瞬にして消えうせた。

優しい香りに包まれれば、不安も戸惑いもなくなった。どうしてこんな気持ちになるのだろうか。わからないままチュンジェはスンフンへと身を預けた。

「あのね、あのね、チュンジェ看護師さんになりたいんだって~。だから、いろいろ教えてあげて~」

「看護師?それは偉いね。とても大変な仕事だけど、やりがいのある素敵な仕事だ。僕にできることがあったらなんでも言うんだよ?僕にできることならなんでもするから」

優しい言葉に小さく頷き、恥じらいながらもかすかに微笑む。

ずっと、なんと呼ぼうか悩んでいた。ジンが父と呼ぶなら、弟である自分にとっても父となる。同じように”お父さん”と呼んでいいのかわからない。でも、できるならそう呼びたいと思った。

意を決して呼びかけようとしたそのとき、遮るかのようにノックする音が聞こえてきた、スンフンが応じればゆっくりと扉が開いていく。

「お兄ちゃん、この患者さんだけど…」

そう告げながら部屋へと足を踏み入れたソルビはピタリと足を止めた。そしてスンフンが抱きかかえているその人と、寄り添うその人とを交互に見遣る。

疲れているのだろうか…。そう思い、目をこすってみるもどちらも消えはしない。どうやら現実のようだ。しかし、そう簡単に認められるはずもない。指を差し、ソルビは口をパクパクさせた。

「チュンジェ、僕の妹のソルビだよ。ご挨拶できるかな?」

「うん」

スンフンの言葉へ素直に応じ、一歩ソルビへと歩み寄る。そしていつものように微笑んだ。

「初めまして。弟のチュンジェです。よろしくお願いします」

「お、おとうと…?」

確かにこんなにも似ているのだから血縁関係はあるはずだ。しかし、それにしても似すぎている。同じ顔なのに刺々しさもからかうような空気もない。

「…?」

普通ならば挨拶をすれば挨拶が返ってくるはずだ。しかし、一向にその気配はない。ただ、観察するような、値踏みするような視線が注がれ続けていた。

「あ、あの…どうか、したの?具合でも悪い…?」

予想していなかった言葉に鳥肌が立っていく。ぎょっと目を見開き、距離を置くようにソルビは後ずさった。

「き、気持ちわるっ!コイツと同じ顔で優しい言葉なんてかけないでよっ!」

「え…?」

ここへ来た目的も忘れ、逃げるように走り去っていく。チュンジェはただ呆然とその姿を見送るしかできなかった。

「気持ち、悪い…?」

自らの言動を振り返ってみてもおかしなことなど何ひとつない。チュンジェは少し思いつめたような瞳でスンフンを振り返った。

「気にしなくても大丈夫だよ。ただ、いつもジンにからかわれてるから、急に優しくされて驚いてしまったみたいだね」

何も悪いことはしていない。そう告げるように優しく囁き、スンフンはそっとその頭を撫でた。ジンもまた真似するようにその頭を撫でる。不思議なことにたったそれだけのことで沈んだ心が浮上していった。

「うん、ありがとう。もう大丈夫」

「チュンジェはいい子だね」

ジンの大丈夫はあまり信用できないが、チュンジェの大丈夫は信用できそうだ。表情には明るさがあり、瞳に暗い影もない。嘘はついていないようだった。

「あ、あの…」

「うん?」

先ほど言いかけた言葉。しかし、タイミングを逃してしまっては言いづらい。でも、このままにしておいては余計に言いづらくなるだけだ。

「チュンジェ、我慢しなくていいんだよ?なんでも言ってごらん」

その言葉は本当だろうか。窺うように俯いていた顔を上げ、じっとその瞳を見つめ返す。スンフンに抱かれたまま、ジンは不思議そうに首をかしげていた。

「ぼ、僕も…お父さんって、呼んでいい…?」

躊躇いながら、か細い声でそう尋ねる。すぐにまた俯いてしまったチュンジェに微笑み、スンフンはもう一度その頭を撫でた。

「もちろんだよ。チュンジェは僕の息子なんだから」

いまさら何を言い出すのかと思えば、そんな言葉が紡がれた。不安にさせないように、躊躇いを覚えにようにとそう囁く。こぼれる笑顔につられてスンフンもまた微笑んだ。

「ただいま、お父さん」

「おかえり、チュンジェ」

少し順番は異なってしまったが気にすることはない。安心したように微笑み、チュンジェは改めて室内を見回した。

ヴァネスの部屋にある本もすごい量だが、ここも負けてはいない。興味をそそられるタイトルの本がずらりと壁一面に並べられていた。

「僕はまだ少し仕事があるから、ふたりで待っていられるかな?」

問いかければ同じ顔が少しだけ違う笑顔を浮かべる。おして示し合わせたように頷き、ジンはスンフンの腕から降り立った。

「チュンジェ、お勉強する~?」

「うん」

そう答えてみたはいいが、勉強道具はすべて車の中だ。取りにいく旨を伝えればジンは少しだけ不安げに眉根を寄せた。

「一緒に行こうか~?」

「大丈夫。ちゃんとここまでの道も覚えてるから」

「うん、じゃあここで待ってるね~」

ソファへと腰を下ろし、部屋を出て行くチュンジェを見送る。何気ない風景を眺めながら、スンフンはそっと微笑んだ。

さきほど通ってきた道をゆっくりと進んでいく。どこを見ても白衣に身を包んだ人ばかり。さほど年齢の変わらない人でも白衣を着ている姿を見ると少しだけ羨ましく思える。

いつかはああなりたい。そう、遠くない未来を思い描く。それを実現するためにはやはり勉強が大事だ。目下、大検に受からなければならない。その後は本物の受験勉強だ。

1日でも早くヴァネスとともに働きたい。チュンジェはそう心の中で呟いた。

「ジン」

ふと、後ろからかけられた声。きょろきょろと辺りを見回してもジンの姿はない。ということはおそらく自分をジンと勘違いしているのだろう。

そう結論付けて振り返ろうとしたそのとき、なんの前触れもなくこめかみに痛みが走った。

「…っ」

「お前、この前僕の家から何を盗ってった?無断で、しかも返却なしとはどういうコトだ?」

いったいなんのことだろうか。あまりの痛みに思考はまとまらず、人違いだという告げることもできない。

「チュンジェっ!」

きっと何かの予感がしたのだろう。そう悲鳴に近い声が聞こえたかと思うと、何か痛々しい音が聞こえてきた。

ぎゅっと抱きすくめられ、涙目で振り返ればそこには頬を膨らますジンの姿。視線の先には腰を抑えてうめく白衣姿の男性がひとり、蹲っていた。

何が起こったのだろうか。しかし、ジンのおかげで痛みから解放されたのは事実だ。チュンジェはか細い声でありがとうと感謝の言葉を伝えた。

「ジンがふたり…?」

蹴られた腰をさすりながら、男はゆっくりと立ち上がった。そして睨みつけるジンと涙を浮かべるチュンジェを交互に見遣った。

「ん…?これはいったいどういうことだ?」

「ジンの弟のチュンジェだよ。前に話しておいたじゃないか。もう忘れてしまったの?」

揶揄するような声に振り返ればジンの後を追いかけてきたスンフンが涼しげな微笑を浮かべながら佇んでいた。

「おいおいおい、僕を誰だと思ってるんだい?忘れてなんかいるわけないじゃないか」

確かにそう言われたのは記憶にある。息子がもうひとりできた、と。しかもジンに似たの可愛い子だと言っていた。その言葉に嘘は何ひとつない。しかし、納得できない部分がある。

「しかし、スンフン。君もひどい男だな。これじゃ似ているどころか生き写しじゃないか。言葉は正確に使ってくれ」

「正確に伝えたでしょう?ジンに似た可愛い子だって」

「むぅ…」

それ以上言い返す気も起きなかった。もう少し言葉で補って欲しいところだが、スンフンの正確を理解している以上無意味だとわかりきっている。

シウォンは諦めたようにひとつ息をつき、もう一度抱き合っているジンとチュンジェを見つめた。いくら違うところを探そうと思っても、区別がまったくつかない。それほどまでに瓜二つだ。

「チュンジェ、大丈夫?痛くない?」

「うん。まだ、ちょっと痛いけど…でも、大丈夫」

「このオジサンに近寄ったらダメだよ?危ない人だから」

ひどい言われようだ。シウォンだけではなく、スンフンもまたそう思う。しかし、確認もしないままに人違いで酷いことをしてしまったのだからそう言われても仕方がない。

「チュンジェ、悪かったな。僕はスンフン…お父さんの友人でリュ・シウォン。ここに勤めている同僚だ。よければお詫びに昼食でも一緒にどうだい?」

本物のジンならば間をおかずして悪態をつくだろう。しかしチュンジェは小さく頷いた。いまの出来事などすでに許してくれているのか、そっと微笑む。

「兄さんと、お父さんが一緒なら…」

「もちろんだとも」

チュンジェが頷いてしまった以上、何も言うことはできない、仏頂面になりながらもジンは承諾するように窺うチュンジェに小さく頷いた。

「せっかくだからシウォンに何かおいしいものでも奢ってもらおうね?」

給料日前の財布の中身を知っているだろうに、スンフンがいたずらにそう囁く。この野郎と心の中で毒づき、シウォンは楽しげに微笑むスンフンを睨みつけた。

「そ、そんな…。初めて会った人なのに…」

「大丈夫、大丈夫~。それくらいのコトしたんだから~」

「でも…」

交互にそう言われ、チュンジェは困惑を滲ませて俯いた。同じ顔なのに中身はまったく違うようだ。そのギャップがなんとも言えない。

「おい、スンフン。なんだ?この可愛い生き物は…」

「だから可愛いって言ったじゃない。人の話、ちゃんと聞いてる?」

しかし、スンフンの辛辣な言葉はシウォンの耳には届いていないようだった。観察するようにじっとチュンジェを見つめており、その行動に時折微笑む。

友人のそんな横顔を見つめ、スンフンは呆れ顔でひとつため息をこぼした。










続く。
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