FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Close your Eyes ep.98-6



HP『Sweet Drops』用に書かれた作品になります。原文のまま転記したので長文になります、ご了承ください。












漂ってくる香りにお腹が小さく音を立てる。ピクリと痙攣するように震えたかと思うと、続いて弛緩したようにゆっくりと伸びていく。

「お腹空いたの~…」

誰にというわけではない。そう間延びした声で呟き、のそのそと起き上がる。そしてリビングへと向かおうとしたジンは何かを思い出したように足を止めた。

「…」

ふと視線がベットの上のまくらに止まる。手を伸ばして触れてみればまたもや硬い感触。前回来たときに抜き取ったはずなのに、あの時と変わらぬ感触がそこにはあった。

「うぅ…」

どうしようかと悩んでみても、疼く心は止められない。整えられたベットの上に腰を下ろし、まくらをぎゅっと抱きしめてみる。誰もいないことを確かめ、ジンは口を開いた。

「こら」

すでにまくらは抜き取られていた。しかし、開いた口はそのままだ。物欲しげにまくらを見つめれば、シウォンは呆れたように小さく息をついた。

「また僕のまくらに穴を開ける気か?」

別にまくらに穴を開けることが目的ではない。しかし、途中経過にその工程がある以上間違いではなかった。

「それ、欲しいの~。ダメ~?」

「これはオモチャじゃないんだぞ?」

「うん、知ってる~。でも欲しいの~」

これでは駄々っ子だ。スンフンの前だといい子なのに、と思わず心の中で呟く。

「でも、これをあげるわけにはいかないな。そんなに欲しいならヨンハに頼んでみたらどうだ?」

「ヨンハ?この前、一緒にいた人~?」

前回助けに来てくれたその人。その後もヨンチョルとの面会を取り持ってくれたり、貸金庫の鍵を特定してくれたりといろいろお世話になった人だ。

「そうだ。いまは彼が特殊部隊の指揮官だ」

「いま、どこにいるの~?」

「極秘ミッションばかりだから居所は家族でもわからないな。運がよければ見つけられるんじゃないか?」

ちょっとした意地悪のつもりだったが、ジンはそれで納得したようだった。大きく頷き、笑顔でシウォンを見上げる。

「頑張って探す~っ」

見つけるのは至難の業だ。この国にいるのかさえわからない。連絡を取れば大まかな居場所は教えてくれるだろうが、滞在している場所などは絶対に教えてくれない。それが規律だった。

泣きついてきたらそのときに確認を取ればいいだろう。そう結論付け、早々にリビングへと向かったジンを追いかける。

すっかり昼食の準備が整ったテーブル。ジンを呼びに行ったつもりだが、どうやら自分が最後になってしまったようだ。

物欲しげに見上げるジンの頭を撫で、シウォンは食べるよう促した。

「いっただっきま~す」

「いただきます」

同じ顔でもやはり中身はだいぶ違う。たったひとつの所作を取ってみてもそれは歴然だった。

ひとつひとつを丁寧に食べ進めていくチュンジェに対し、ひとつ口に放り込んだそばから次のものへと手を伸ばす。そして一番の差はやはり許容量だろう。

「も、もういいんですか?お口に合いませんでしたか?」

驚いたのはボアだ。ジンと同じだけ食べるだろうと踏んでいただけに衝撃だ。足りないかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。

丁寧に口元を拭ったチュンジェは小さく微笑み、髪を揺らしながらかぶりを振った。

「すごくおいしかったよ。ヴァネスにも食べさせてあげたいくらい」

「ヴァネス?」

「うん、ヴァネス」

その名前は聞き覚えがあった。面識もある。いったいどういう関係なのだろうか…。深入りすることではないし、詮索することでもない。しかし、どうしても気になってしまう。

「どういう関係なんだい?」

「ヴァネスのお家に住まわせてもらってるの。勉強も教えてくれるし、すごく優しい…。兄さんの次に好きな人」

幸せそうに語るチュンジェを見つめながらシウォンは少なからず複雑な思いを抱いていた。まるで恋人を紹介された親の心境だ。

「僕ね、看護師になってヴァネスと一緒に働くのが夢なの。だから、そのためにも勉強かんばらないと」

目的があれば勉強も捗る。しかし、やはり複雑だ。夢を妨げるわけにも行かないし、ヴァネスに対して駄目だしする権限もない。悶々とした気持ちを表すように眉間にはわずかな皺が寄っていた。

「もしよろしければレシピをお持ち帰りになりますか?」

「いいの?」

「はい、もちろんです」

微妙な間を繕うようにボアがそう告げる。するとチュンジェは嬉しそうに笑顔をこぼした。嬉しいことはジンにも分けてあげたいと、食べることに夢中なジンへと報告をする。
「よかったね~?作ったら、オレにも食べさせてくれる~?」

「うん」

その答えに満足げに微笑み、テーブルいっぱいに並べられていた料理をほぼひとりで平らげる。そして膨れたおなかをさすりながらもジンはボアを振り返った。

期待に満ちた眼差し。ボアはそれだけで理解したようで、微笑みながら冷蔵庫へと向かった。冷やしておいたフルーツゼリー。これならば甘いものが苦手なシウォンでも食べられるはずだ。

「ケーキはおやつのときまで待っててくださいね?」

「うんっ」

大きく頷き、つるんとケーキを一口で頬張る。物足りないような気もするが、あとでケーキが出てくるとわかっているならば文句はない。

「僕のも食べる?」

「ううん、それはチュンジェの分~」

ちゃんと食べないとダメといわんばかりに寄せようとした小さなグラスを押し返す。本当ならば食べてしまいたいところだが、ここは我慢すべきところだ。

ジンとゼリーとを交互に見遣り、躊躇いながらもスプーンですくったそれを口へと運ぶ。おなかはいっぱいのはずなのに、それはすんなりと喉を通っていった。

「おいしい…」

「ボアちゃんの作ってくれるデザートはどれもおいしいんだよ~」

ジンの言葉に頷き、今度はもう少し大きめにすくって口へと運ぶ。ほどよい甘さと冷たさ。あっという間に平らげ、チュンジェは両手を合わせた。

「ごちそうさまでした」

「お口に合ったみたいでよかったです。ケーキも楽しみにしていてくださいね?」

「うん」

そして揃っての昼食が終わればまたそれぞれの時間。チュンジェは勉強に没頭し、ジンはおなかをすかせようと2匹の犬と戯れる。

15時になると同時に4人では大きすぎるケーキを囲む。しかし、心配は無用だ。大半はジンの胃袋へと納まっていく。その食べっぷりに驚いたのか、チュンジェはジンのおなかをそっと撫でた。

「う?」

「兄さんのおなかは四次元ポケットだね?」

「四次元はユファンのおなかだよ~」

初めて聞く名前に小さく首をかしげる。そういえば紹介がまだだったと思い至り、ジンはぽむっと手を打った。

「あとで紹介するね~?」

「うん」

別段、前もって連絡する必要もない。夜にでも部屋を訪れればいるだろう。どんな反応をするのだろうか。楽しげに笑うジンにチュンジェもまたつられて微笑む。

「まだユファンには会ったことがないのか?」

「うん」

どんな反応をするのか、シウォンにとっても気になるところだ。今夜はスンフンの元へ遊びに行こうかと考えてみたが、邪魔者扱いされるのは目に見えていた。報告を待つしかないだろう。

「ユファンさんもきっと驚きます」

鈴の音のように可愛らしい笑い声。にんまりと笑いながら頷き、ジンは楽しみだとうきうきとした様子で身体を揺らす。

楽しげな空気に包まれ、過ぎていく時間。気づくと窓の外は暗くなっており、インターホンが控えめに鳴り響いた。

ピクリと身体を揺らし、ジンがモニターへと駆け寄っていく。来訪者がわかっている以上、咎める必要もない。嬉々とした声で応じ、ジンは足取り軽く玄関へと向かっていった。

まだエントランスを潜ったばかりなのだから、そんなに慌てて出迎える必要もない。しかし、相手が相手なだけにいち早く迎えたいのだろう。

扉を開けてエレベーターのほうをじっと見つめていたジンが駆け出していく。どうやら到着したようだと、シウォンは微笑んだ。

「ただいま、ジン。いい子にしてたかな?」

「うんっ」

抱きかかえられて再び登場したジンをチュンジェが少しだけ羨ましそうに見つめる。それに気づいたシウォンは立ち上がり、そっとその身体を抱き上げた。

「うわ…っ」

突然のことにうまくバランスが取れない。ぎゅっとシウォンに抱きつけば、くぐもった笑い声が聞こえてきた。

「支えてるから大丈夫だぞ?ほら、手を離してみろ」

恐る恐る手を離し、チュンジェはシウォンを見下ろした。そして不思議そうに首をかしげた。

「抱っこして欲しかったんだろう?」

心を見透かしたように告げられた言葉。チュンジェは少し驚いたように目を見開いた。

「なんでわかったの…?」

「顔を見ていればわかるぞ?」

きょとんとした顔が幼い笑顔へと変わっていく。喜びを伝えようとジンを見遣れば、ジンもまた嬉しそうに笑っていた。

子どもというのはいいものだ。打算も計算もなく、純粋にシウォンはそう思っていた。









続く。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : BL小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。